第39話 召喚

「和田さん、その二体はどのように倒していけばいいんですか?」


 これがポイントだ。話を聞く限り和田さんが直接戦闘参加できないんじゃないかと思う。何をするかわからないけど、和田さんは異界のモンスターが二度と出現しないように世界の法則を書き換えると言っていた。


「そこが問題なんだ。リベールたん。残念ながら私は再びこの世界から法則を書き換えるため移動しないといけない」


「同時討伐が必要じゃなければ、俺が各個撃破しますけど」


「それは少々リスクが高い。アビスデーモンから行くのは当然として、暴帝が気づく可能性がある。暴帝は本能だけで生きているモンスターだが、非常に危機に敏感だ」


 んー。「アビスデーモン」が倒されて、俺が「暴帝」に挑みに行くことを奴が本能的に感じ取れば、大量のモンスターを異界から召喚するかもしれないということか。

 魔法には移動魔法といって一瞬で移動することができる魔法がある。移動魔法を使って、時間短縮したらどうだ?


「リベールたん、もう一つ問題がある。アビスデーモンが倒され一定時間が経過すると、再度アビスデーモンがポップすると思われる」


「その辺ゲームに近いんですね! 奴らの法則がそうなってるんですか?」


 「アビスデーモン」の世界であるアビスには、奴らが複数いて、この世界には一体しか来れないが、この世界からいなくなると次が出てこれるというわけか。


「そう思ってもらって構わない。二体ほぼ同時に倒れてもらう必要があるわけだ」


 それは難易度が高いな。「天空王」に「暴帝」が倒せるか? 「天空王」を「アビスデーモン」に当てるのはダメだ。奴は知性があるから「天空王」が来れば事態を把握するだろう。


「天空王で暴帝に勝てるんですか?」


「天空王はキャラクター化してる。だからゾンビアタックすれば可能だが、あまり時間をかけると......」


 ゾンビアタックとは、死んで復活して死んで復活してを繰り返し、少しづつ相手にダメージを与えて倒す手段だ。討伐まで長時間がかかるし、その間に異界からモンスター大発生もありうる。


「手詰まりじゃないですか......」


「いや、そうではない。リベールたん。何の為に他にキャラクターを準備したと思っているんだ」


「まさか、プレイヤーを新しく召喚するんですか? たった十日で適用できますかね?」


「君の親しいプレイヤーに、君と同じくらい素晴らしい操作技術を持った人物が二人いただろう?」


「い、いますが、呼んだとして協力してくれますかね?」


 和田さんは詳しいな。確かに俺のゲームで親しかったプレイヤーのうち二人は、超絶な操作技術を持っていた。しかも一人は俺の弟だ。顔を知らないもう一人にはさすがに頼むことは考えられないが、弟ならどうだろう。

 ただ、たった十日で適応しないといけないから相当大変だぞ。


「ならリベールたん、呼んだ後、気に入らなければ戻せるように取り計らおう。それでどうだ?」


 え、戻せるって? じゃあ俺も戻れるんじゃ?


「え、それって。俺も戻ろうと思えば戻れるんじゃ......」


「ああ、そうだ。ログアウトと念じれば元の世界に戻れるはず。ただ、リベールたんの場合入れ替わりがあるから、先に元に戻さないとだ」


 なるほど。俺の本体――リュウもいるからな。話は複雑だ。しかし、戻れるのか俺。良かった......


「呼ぶにはキャラクター化した人間が必要だ。そこのゴルキチは君と入れ替わっている人物だからふさわしくない。入れ替わりの無いキャラクター化した人物は知らないか?」


「ん、一人だけいる。彼女を呼べばいいのかな?」


「どちらでもいい。遠隔操作も可能だ。私にはテルをくれれば会話できる」


「テルってゲームでの離れた場所で会話する手段ですよね? 使えるんですか?」


「もちろんだ。君の体はゲームキャラクターに酷似しているんだぞ。テルもメッセージ機能も使える」


 ゲームでは離れたプレイヤーとリアルタイムで会話できる「テル」という機能と、知り合いにメッセージを送る機能があった。両方使えるということか。


「じゃあ、ゴルキチにテルすることもできるんじゃないです?」


「そうだな。テルはできるがゴルキチは脳内ディスプレイもキーボードも無いからメッセージが受け取れるか不明だな」


 いずれ試せばいいか。一方通行のお知らせになってしまうが、これがあると連絡性能が格段に向上するぞ。


「和田さん了解です。ジルコニアに俺とゴルキチ送れますか?」


 転移魔法を使って和田さんなら俺たちをジルコニアに送れないかなあと思ったり。


「送れるが、戻りはどうする? いや直接会う必要も無いか。馬車は持っていけないが大丈夫か?」


 和田さんとは遠距離で会話できるから、離れていても問題はない。馬車がもし必要ならジルコニアで再度調達することも出来るしな。ここにいるデイノニクスだけなら連れていくことも出来るだろう。


「問題ない。デイノニクスとゴルキチと俺を移動させてくれ」


「了解した。送るが人のいない場所へ転移させよう。君の泊まっていたあの部屋だ」


 あの部屋は便利だったので、ジルコニアに戻るつもりだったから二週間ほど宿泊費を支払い済みだ。部屋の鍵も持っているし、誰も部屋にいないだろうから都合がいい。

 あ、和田さんにキーワードとキャラクターチェンジについて聞いていなかった。試してないが、和田さんの鍵を解くパスワードを入力したことでリベールも含め全てのキャラクターチェンジが出来るようになっていると思う。

 試して不明点があれば、和田さんに都度聞けばいいだろう。



◇◇◇◇◇



 宿屋の部屋へ転移した俺たちはさっそく、宿屋の主人に挨拶を行い、デイノニクスを厩舎に入れてもらう。続いてしゅてるんの占い屋を訪れると、ちょうど彼女がいたので、「アビスデーモン」「暴帝」の二体について説明を行う。


「で、しゅてるんに協力してもらえないかと思って」


「おもしろそうねね。私はよいよ」


 怪我しても死んでも問題ないことはちゃんと伝えている。だからこそ協力してくれるのかもしれないが。

 俺はしゅてるんの了承を得たので、和田さんへテルすることにする。


<和田さん、響也をしゅてるんへ入れることが出来ますか?>


 響也とは俺の弟の名前だ。彼は超絶な操作技術の持ち主で、ゲーム内であればどのモンスターでもほぼ無傷で倒し切ってしまう。俺と違って戦闘用AIは使わずにだ。

 本当に我が弟ながら驚異的だよ。


<ああ。問題ない。今すぐにでも可能だ>


<俺の時みたいに、本体がこの世界に来たりしませんか?>


<問題ない。そのバグは完全に精査が終わっている。では呼ぶぞ>


 和田さんのテルが切れると同時に、しゅてるんへ光が差し込みすぐに光は消える。


「おお。私の中に男の子が来たのの」


「しゅてるん、そいつと変われるか?」


 しゅてるんの中でどのようになっているのか不明だが、彼女の脳内か精神世界か分からないが二人が対話できる状態なんだろうか。体の主導権をどちらが握るかによって会話できたり、体を動かしたりできるんじゃないかなあ。


「変わりました。一体これは......」


「響也、聞いてくれ。この体はリベールという。今話をしているのは俺だ。竜二だ」


「え、兄さん? 何がどうなってるのか分からないよ」


 俺は響也にこれまでの経緯を説明し始める。響也はこんな時まで頼ってしまうふがいない兄に失望するだろうが......

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