第35話 私のことどう思ってる?

<キャラクターチェンジしますか?>


 脳内ディスプレイに竜二が表示され、竜二をクリック。キーワードに<A>を入力するが、一文字じゃ反応しない。ダメかー。

 遊び心で試しに<A><A>と入力してみたら......


 キーワードが通ってしまった!


 しかし二文字なら、片方が<A>と分かっているから二十四回試せばいずれ突破できたと思う。今回はたまたま通っただけだが。

 すると、ゴルキチと同じような操作が竜二でも出来るようになった。一歩前進したが、この先どうすればいいのか皆目見当がつかないなあ。


 まず「天空王」から同じようなモンスターはいるか聞こう。


「ありがとう。リュウ」


 俺はリュウから手を放すとお礼を言って、この場は解散となる。リュウたち三人にはジルコニアで引き続き情報を集めてもらうようお願いすると、「任せてくれ」と応じてくれたのでジルコニアでの情報収集は彼らに任せよう。

 俺とゴルキチは「天空王」と別れた場所まで移動しようと思う。街から充分に離れた場所でないと「天空王」を呼ぶことはできないからなあ。



◇◇◇◇◇



 「天空王」と別れた場所までは馬車でおよそ二日かかる。順調に旅をこなしていく俺とゴルキチが「天空王」と別れた広い荒野に到達する頃には日が暮れ始めていた。

 時間も時間なので、このままここで野営することにして、明日「天空王」を呼び出す角笛を吹くことに二人で相談して決めた。


 夕飯を食べ終わった後、俺たち二人はまだ寝るには早かったので、馬車の御者台に座り星を眺めていた。


「リベール。君には本当に感謝している」


 ポツりと独白するようにゴルキチが空を見たまま呟く。感謝するのは俺のほうだよ。何となくなんだけど、旅も終わりが見えて来ている。この旅が終わり、俺が元の場所へ戻れるとなると、俺は一体どうするだろう。

 元の生活に戻りたい気持ちはもちろん強いが、ゴルキチと過ごした日々も忘れられない宝石だ。


「ゴルキチ、それを言うなら俺のほうだよ。今まで俺についてきてくれてありがとう」


 こういうことを言うのは照れ臭いが、この世界明日には何が起こるか分からない。ゴルキチはいいずらい感情をすぐ口に出すが、戦士として生きて来た彼は、明日が必ず来ることが当たり前ではなかったのだろうと今なら彼の気持ちが分かる。

 平和な日本なら明日が来て当たり前だから、感情を――特に好きだとか嫌いだとかはすぐ口に出すことはないが、ゴルキチのようにストレートに感情をぶつけることがこの世界では普通なんだろう。

 俺自身の性格が変わったわけではないが、伝えたいことは伝えれるうちに伝えるべきだ。この世界では。


「全く君はずっと変わらないな。私を恨みこそすれ、感謝するなんて」


「いや、心からそう思ってるよ」


 ゴルキチがいなければ、俺はここまで来れなかっただろう。食べ物さえ食べれず飢えて死んでいたかもしれない。

 彼が準備してくれなければ戦闘を行うこともできなかっただろう。説明不足の俺に疑問も持たずついてきてくれてありがとう。

 心からそう思う。もしゴルキチが女だったなら、俺はきっと好きになっていたに違いない。残念ながら、褐色のハゲなんだが。ああでも、今はリベールの体だから、男のゴルキチを好きになっても普通に見えるのか。

 見えるだけで、感情がそれを許さないが! た、確かに甘えてるけど。これは愛とかじゃない。


「そうか......私に......君は大海龍まで討伐した英雄なんだぞ。もっと堂々としてもいい」


「いや、討伐できたのはリベールの体のおかげだよ」


 たわいのない会話を続ける俺とゴルキチ。生贄を乗り切ってからこういった穏やかな時間も過ごせるようになってきている。明日には無くなるかもしれないからこそ、この経験は貴重な宝石になるんだ。


「ゴルキチ、全員の前だと話ができなかったが、今どうなっているか話しておく」


 突然真剣な顔になった俺に合わせてゴルキチも表情を引き締める。


「まず、俺とゴルキチ、しゅてるんは代謝のない体になっている」


「ああ、そこは理解した。だからスキル......だったか? を覚えれると」


「そうそう。そして入れ替わりの三人はリュウだけが生身だ」


「そこも不思議だが、そうなってるということだな」


 ここからどう説明したらいいか。俺の体が何故この世界にあるのか謎だが、まず俺の体が転移したのか転生したのか不明だが、この世界に出現すると同時か俺の意識がないうちに入れ替わりが起こった。

 入れ替わった三人は恐らく同時に入れ替わっている。


「WとかDとかのキーワードは、俺たちが元へ戻るためのキーワードになってると思う」


「なるほど」


 キーワードをゴルキチには「W」と「D」、リュウには「A」と「A」を入力することで、操作する人物――プレイヤーを選択することができた。ただ、手を繋ぐなり肉体的に接触していないとキャラクター名が表示されない。


「それでだな、今聞いたキーワードを使うことでゴルキチとリュウは精神を入れ替えることもできそうなんだ」


「なんだと! ならリュウに成りたい......」


 いや、そういうと思ったけどゴルキチとリュウが入れ替わっても問題の解決にならないからほっておいた。それにリュウをずっと傍で見るのは精神的にきついものがある。なんだよあの恰好!


「ま、まあそれは考慮しておくよ......問題はリベールの精神を動かすことができないことともう一つある」


「なるほど。キーワードが足らないのか、他の理由か分からないのか。もう一つとは?」


「もう一つは俺たちの代謝の無い体を元に戻すには、どうしたらいいか分からないってことだよ。しゅてるんも代謝が無いことから、どこかに本物の体があるという線は確率が低いと思う」


 そう、俺とゴルキチだけならどこかに体が保管されていて、この体は仮の体として生成されたものであっても不思議じゃなかったが、関係者といえばいいのか入れ替わり対象ではないしゅてるんもとなると、他にも台車の無い体の人物がいるかもしれない。

 そうなると、体を保管しているよりは、システムの影響が体に及んでしまったと考えるほうが自然な気がするんだ。


「それもキーワードを集めれば解決するかもしれないな」


 ゴルキチは一応理解したようで、フムフムと頷いている。自分の中で考えを整理しているようだ。そう思っていたら突然神妙な顔で俺を見つめて来た。


「そ、その君は、リベールをどう......ああうまく言えないな。リベールは気に入っているのか?」


 突然何を言い出すんだ。リベールの体が気に入っているかどうか? なのか。


「リベールでなければ、モンスターを討伐することなんてできないよ。リベールだからいいんだ」


 俺の説明にゴルキチは納得がいってないらしい。


「そうじゃなくて、あのだな、私じゃない、リベールは魅力的か? そ、その私は女らしくないからな」


 まだ言っているのか。スカートの時にもそんなことを言っていたな。


「前も言ったかもしれないけど、リベールはどこから見ても可愛らしい......いや凛とした清涼感ある女の子だよ」


 言ってて恥ずかしいわ。なんで自分の体をこうやって説明してるんだよ......俺は。自分で言うのもなんだが、鏡越しに見るリベールは整った顔に切れ長の目、薄いシュッとした眉にスレンダーな体形。

 美しい茶色の長い髪と俺の目から見たら凛とした麗しい少女だ。年齢は不明だが、見た目は十八かそこらに見える。実際はもう少し上なのかもしれないけど。


「し、信じられないが、君が言うなら信じよう」


 ゆでだこのようになったゴルキチはスキンヘッドだから本当にタコみたいだ。俺はタコみたいなゴルキチを見て吹き出してしまう。

 明日には「天空王」と再び会う。上手く情報が入ればいいな。

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