第34話 新たなキーワード
俺はリュウの腕を取ると、ギュッと握りしめる。視線を感じたので振り向くとゴルキチの視線が痛い......俺が俺に触ってるだけなんだけど。
「わ、わたしも触りたい」ボソッとゴルキチは呟いていたが聞こえてるから。
「リュウ、もう一度、魔法使いになりたいと念じてみてくれ」
「おう」
リュウが目を瞑り、念じても脳内ディスプレイは開かない。リュウは対象外なのかなあ。
「んー、反応しないな。もう一つ試したい。そのままじっとしていてくれ」
今度は「キャラクターチェンジ」を試してみよう。果たしてリュウは表示されるのか。さっそく、「キャラクターチェンジ」と念じると脳内ディスプレイが開く。
<キャラクターチェンジしますか?>
表示されたのは、リベールと竜二だ! おお。竜二が表示されたか。試しにそのままジャッカルをもう一方の手で掴んでみるが、表示されない。
「ゴルキチ、少しこっちに寄ってくれ」
ゴルキチを呼んで、頭に手をやると、一覧にゴルキチの名前も加わる! なるほど。リベール、ゴルキチ、竜二が俺がキャラクターチェンジ出来る可能性のあるキャラクターというわけか。
操る人間も同じく三人。
表示されているキャラクターから竜二を選びクリックしてみるが、またしてもキーボードでの入力を求められる。ゴルキチの時と同じように<W><D>と入れてみると、
<そのキーワードは既に使われています>
と出た。ということは、他にもアルファベットを知る人がいるということかあ。ゴルキチと同じなら恐らく二文字。そうすれば、竜二をクリックし操作する人間を変更することが出来るんじゃないかと思う。
しかし、リベールは不明だ......キーボード入力の表示が出ないからなあ。
次に一覧に表示されているゴルキチをクリック。<W><D>と入力すると、ゴルキチの操作可能な人――プレイヤー名一覧が表示される。表示されたのは、ゴルキチとリベール!
リュウとゴルキチの中身......つまりリベールの精神とゴルキチの精神の入れ替えは可能だ。残念ながら、リベールを選択してもプレイヤー名一覧を表示させることが出来なかった。今わかるのはリュウのキーワードが分かれば何か進むかもしれないってことだけだな。
リュウとゴルキチの中身が入れ替えれることは少し黙っておいたほうが良いかもなあ。中途半端に動かしてどうしようもなくなるかもしれない。他のキーワードが分かってからでも遅くないと思う。
ゴルキチは外と中身を一致させることが可能ではあるが、代謝が無いなど人として少しおかしい部分があるから、本当に戻ったかどうか疑問だ。
「二人ともありがとう。いろいろ分かった」
俺はゴルキチとリュウから手を放し、自分の席に戻る。全員が俺に注目し、俺の言葉を待っていたのですぐ俺は説明に入る。
「分かったことは、俺とゴルキチ、しゅてるんはスキルを覚えることが簡単にできる」
「ほう」
ゴルキチが少し嬉しそうな顔をし頷く。
「ジャッカルとリュウは無理そうだ。リュウに触れて分かったが、戻るためのキーワードが足りない」
順を追って説明してなかったからか、全員が要領を得ない雰囲気だ。俺はまずしゅてるんに俺たちが入れ替わってることを伝え、俺とゴルキチの体が不思議な状態にあることを伝える。
リュウから「D」というキーワードを聞いたこと、リュウはどうやら生身の肉体であるらしいことも併せて伝える。
「ん、私の体も少し前からおかしいのかもも。占い師に成れたのも、今思うと体がおかしくなってからかもも」
話を聞いたしゅてるんは、最近の自身を振り返り俺に向けて自身の感じたことを伝えてくれた。 ひょっとして、しゅてるんも一部代謝が無い状態――キャラクターのようなアバターのような状態になっているというのか。
となると、一部代謝が無い状態になった人物だけ「スキル」を覚えることができるのかもしれない。
しゅてるんはさらに言葉を続ける。
「そうねね。朝起きた時に頭に浮かんだ言葉もあったのの」
「何!」
リュウと同じで、キーワードを聞いたのか。
「Aだったわ。たしか」
「Aか、ありがとう!」
整理しよう。システムのくびきを脱したという「天空王」からは「W」。入れ替わりが起こったリュウは「D」。代謝が無くなったしゅてるんは「A」。関係性は不明だが、システムから強い影響を受けた人間がキーワードを受け取っている。
ならば、俺かゴルキチもキーワードを受け取っていてもいいものなんだけど。少なくとも俺は何らキーワードを受け取っていない。
「話を戻そう。スキルを覚えれる人間は、髭が伸びない人間と思ってくれればいい」
これはジャッカルとリュウに向けて分かりやすく説明したつもりだ。髭が伸びないとなると普通じゃないことはすぐ分かるだろう。今一納得いかない様子のジャッカルとリュウに、ゴルキチの頭を掴み二人に見せる。
「ゴルキチはハゲ頭も髭も剃っていない。触れば分かるがツルツルだ」
「ははは! 分かりやすい!」
リュウは納得がいったようだ。自分が毎日頭の毛と髭を剃っていたことが分かるからだろう。
「しかしリベール。しゅてるんさんが私たちと同じ体の状態だと決めるのは早くないか? 彼女は髭も生えないだろうし」
待ったをかけるゴルキチに、しゅてるんはあっけらかんと答える。
「んん、わきの脱毛もしてないんだけどど、そのままなのの。それに......」
しゅてるん、待て。その先は言わなくていい。俺は急いで机から乗り出ししゅてるんの口を塞ぐ。
「分かった。分かったから。その先は言わなくていい」
ゴルキチも俺の言葉で察したのか、これ以上何も言わなかった。
「次続けるぞ。WとD、おそらくAもだが俺たちの入れ替わりを戻すためのキーワードかもしれない」
「おおおおお」
全員の声が重なる。
「ただ、キーワードはまだ足りないし、代謝が無くなった体をどうやって元に戻すのかも分からない」
「ほぉう。面白そうな流れじゃねぇかぁ。ヒントはキーワードだけかぁ。先にそっちから探ろうぜ」
ジャッカルが今後の指針を提案する。言う通り分かるところから何とか探っていくのがよいと思う。じゃあどこを探ればいい?
俺はこの機会だから、ゴルキチに断ってから俺がリベールとして目覚めてからのことを三人に説明した。するとジャッカルが極悪そうなニヤリとした笑みを浮かべる。
「要は入れ替わりか体の様子がおかしい人間を探せばいいんだなぁ。モンスターにもいるかもしれねえってところが厄介だな。まず天空王って奴に会ったらどうだ?」
この見た目でジャッカルは意外に頭が切れるのかもしれない。伊達に盗賊団じゃなかった......トレジャーハンターたちをまとめていないってことか。人もそうだが、「天空王」もキーワードを持っていたんだ。
「天空王」なら、システムから外れた他のモンスターも知っているかもしれない。全くヒントが無いから、ヒントを持ってる可能性がある「天空王」に会うことは効率的だ。
「後はそうだなぁ。しゅてるんに片っ端からオーラって奴を見てもらうくらいか」
しゅてるんは少し変わった人のオーラを見分けることが出来る。片っ端から見ていけば分かるかもしれないけど、砂浜から砂金一粒を見つけるようなものだ。現実的ではない。
「ありがとう。ジャッカル。まず天空王と会ってみるよ。その前に一つだけ」
俺はリュウの腕を掴み、「キャラクターチェンジ」と念じる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます