第28話 ベルセルク
しゅてるんと一緒に宿の部屋へ入ると、ベッドの上に腰かける。今の服装は黒のワンピースに紺色のニーハイソックスだけなのでリラックスにはもってこいだ。
ベッドの上で胡坐をかく俺に少し怪訝な顔をしたゴルキチをほっておいて、目をつぶりリラックスをし始める。
集中し、「ベルセルクになる」と心の中で強く念じる。すると、脳内ディスプレイが出現する。
なんとキャラクター選択画面が表示されている。選べるキャラクターはリベールのみ。
脳内のマウスポイントをリベールに合わせクリック。リベールが選択されディスプレイの表示が変わる。
<職業 無 プレイヤー名 竜二>
プレイヤー名が激しく気になるが今は職業を選択する。
<リベールの職業を変更しますか?>
と表示されたので、「はい」を選択し、クリック。出てきた職業一覧は「ベルセルク」のみだった。「ベルセルク」になりたいと念じたから「ベルセルク」だけ表示されたのだろうか。
今はしゅてるんも待っているから、急ぎ「ベルセルク」を選択しクリック。
<リベールの職業をベルセルクに変更しました>
あっさりと職業変更ができてしまった! 実際に「ベルセルク」のスキルが使えるかどうかは両手斧を持ってみないと分からない。しゅてるんと別れた後に検証してみよう。
目を開くと心配そうなゴルキチと興味津々のしゅてるんが目に入る。
「しゅてるん、素晴らしい発見だ! ありがとう」
立ち上がりしゅてるんの手を握りしめ、飛び跳ねる俺にしゅてるんは満足そうな笑顔を見せている。
「よかったのの。上手くいったようね」
これは職業が選べた以上に素晴らしい発見だ。後でゴルキチにも彼が分かるところだけは説明しよう。
しゅてるんに改めてお礼を言ってから、彼女は帰って行った。帰る前に彼女は自身が経営する「占い屋」の場所を告げて言ったので、必要があればまた彼女に会うこともできるだろう。
◇◇◇◇◇
しゅてるんが帰った後、俺はミルクを飲んでいるゴルキチに先ほど何が起こったのか説明することにした。ゴルキチは俺の分のミルクも用意してくれたのだが、ミルクはもう飲みあきたので他の飲み物が無いかと聞くと、紅茶っぽい飲み物を出してくれた。
コーヒーはないんだろうか。さっき食堂で飲み物頼んだ時に俺もメニュー見ればよかった。あの時も任せたらミルクだった......だからミルク飲んでももう手遅れだって。言えないけどな。
「ゴルキチ、さっきしゅてるんが言っていた魔法のことは分かる?」
「魔法は見たことがある」
いまいち要領を得ていない様子のゴルキチへどう説明したらいいものか。
「魔法は一つの技能――スキルと思ってくれ。で、魔法は数あるスキルの一つに過ぎないんだ」
「見えてこないが、魔法はスキルだな。分かった」
ゲームでは職業によって使えるスキルが変わってくる。魔法使いになれば「魔法」のスキルが使えるようになる。他の職業ではもちろん他のスキルが使えるんだ。中には使えないものもあるが、職業につくことによって何か一つはメリットが出る。
この世界では魔法使いは存在し、魔法も使える。しゅてるんの言葉によると、魔法も一種のスキルと考えることが出来そうだ。
何故なら、生まれながらの魔法の才能というものはなく、儀式を経て初めて魔法を使えるようになる。
儀式には成功と失敗があるそうだが、成功すれば必ず魔法が使えるようになるらしい。逆に言えば、魔法使いにならなければ魔法を使うことが出来ないということだ。才能は関係ない。
ここからどんなことが想像できるのか? 魔法はゲームと同じ「魔法使い」という職業にならなければ「魔法」スキルが使えない、というわけだ。
さらには、魔法使い以外の職業もあるに違いないということ。
「でだな、しゅてるんはオーラを見るスキルがある」
「ふむ。オーラが見えるとか言ってたな」
「そして、まだ試していないが恐らく今の俺はバーサークが使える」
しゅてるんは「占い師」という職業に就いたので、オーラを見るスキルを得た。俺はさきほど「ベルセルク」になったのでバーサークというスキルが使えるはずだ。
「このスキルを使うには、職業に就く必要があるんだ。実生活の職業とはまた別だ」
「うー。頭が煙をあげそうだ。要はスキルを使うために職業というものが必要なんだな」
頭を抱えながらゴルキチがうなっている。
「まあ、難しいことはいい。スキルを使える人がいるってことだけ覚えておけばいいかな。ゴルキチだって使えるようになるかもしれないぞ」
「おおお。それは楽しみだ」
「職業は実生活には役に立たないけど、名前だけなら近衛騎士とかグラディエーターとかゴルキチの好きそうなものもある」
「おおおお。近衛......」
たぶん今ゴルキチの頭はお花畑になっているだろう。いずれゴルキチが職業を持つにはどうしたらいいか考えるとして俺には今気になっていることがいくつかある。
「ゴルキチが職業を得る方法は考えておくよ」
「あ、ああ。しかし近衛か」
まだ言ってる......近衛騎士になったからと言って、王都の近衛騎士になれるわけじゃないんだぞ。分かってても近衛騎士に憧れるのかな。リベールは元々戦士だしなあ。王の騎士って憧れなんだろうか。
「実際に近衛騎士になるわけじゃないぞ。そこだけは忘れないでくれ」
「称号みたいなものだろう? それでも近衛騎士なんて嬉しいじゃないか」
称号か、言いえて妙かもしれない。職業だと現実の職業と確かに被るものな。興奮するゴルキチをよそにいそいそと寝る準備を行う俺だった。
いつの間にかゴルキチが今度はオレンジが描かれたネグリジェをいつの間にか買っていたので、それを着ることにする。ホントこういう趣味ばっかりだなあゴルキチの奴。
夜ゴルキチに張り付きながら俺は気になることを整理することに。
しゅてるんとの会話で発見した一番のことは「念じる」ことで今まで脳内ディスプレイに表示されていなかったことが表示されたことだ。
「ベルセルク」になりたいと願ったことで、キャラクター名「リベール」が表示された。プレイヤー名は俺自身で、これを変更することができれば元に戻れるのかもと思う。予想に過ぎないがゴルキチもキャラクターなんじゃないかと考えている。
リベールと同じく人間としての代謝が一部無く、中身がリベールだからだ。じゃあ、ゴルキチの精神も見つけることが出来れば少し進展するかもしれない。
天空王が言っていた「W」も何か新しいメニューが出てくるキーワードの一つなのかもしれなくて、幸いなのがこの世界で特殊な儀式を発見したりすることなく、方法さえ分かれば俺の脳内で解決できそうな点だ。
試しに「W」と強く念じてみたが、何も脳内ディスプレイに表示されることは無かった。何かのヒントなのか? 二人で手を繋いで念じるとか? もしくはパスワードなのかもしれないけど。
明日ジャッカルから入れ替わる前のゴルキチのことを聞ければ何か分かるかもしれない。情報が途切れ途切れながらも集まってくるのは順調すぎて不気味に感じる......何か落とし穴がありそうな気がするんだよなあ。
俺は漠然とだが、リベールと入れ替わったのは偶然ではないと思い始めていた。何者だ? これを仕組んだのは。
ゴルキチの頭をナデナデしていたら、いつの間にか俺は眠りに落ちていた......
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