第27話 スカート

「ゴルキチ、普段着を一つ買いたいんだけど」


 衣料品店の店頭で俺はゴルキチに提案する。今は旅用の革鎧とスカート姿で、替えの服が下着類しかないんだ。一着くらい替えの服が欲しい。さすがに革鎧は嵩張るので要らないが。


「ああ、私も買っておきたい」


 そう、店に入るまでは二人とも乗り気で入ったんだ。しかし......


「私は厚手のズボンと上着を選んでおくよ。リベールの分はどうする?」


 ゴルキチは適当に選んでおくみたいだが、俺の服はどうしようか。ゴルキチに一旦選んでもらうか。

 この選択が間違えだった。ゴルキチが選んできたのは、裾にレースの付いた濃紺のワンピースとカーキ色の短いスカート、厚手の黒のタイツに白のニーハイソックス。


「ご、ゴルキチ、ズボンはないのかな」


 またしてもスカートばかりだったので、ズボンが無いかゴルキチに聞いてみると、ニヤニヤし始める。


「ほう。男っぽいリベールにはズボンがいいと?」


 何か触れてはいけないところに触れてしまったみたいだ。男っぽいって、リベールの見た目は凛とした少女だけど。髪も長くアップにしていて、後ろをゴムでくくっている。

 どこからどうみても男っぽくは見えないんだが。


「どこからどうみても男っぽくは見えないって」


 クルクルその場で回って見せる俺に、微妙そうな顔をするゴルキチ。ゴルキチ自身はリベールを男っぽいと思っているのだろうか。何でスカートに憑りつかれているんだ。


「とにかく、ズボンは良くない」


 頑なにズボンを否定するゴルキチに、何とかしようと思っていた俺はあきらめるしかなかった。どうしてもスカートを履かせたいみたいでこれは譲らないと感じたから。

 一応タイツも買ってくれてるし、我慢するか。


「わ、わかったよ」


 ゴルキチのあまりの勢いに、引きつった笑みを浮かべて俺は了承したのだった。よく考えてみると、今は俺の体なんだし、俺が何で譲るんだろう。いかん、深く考えてはダメだ。

 一応中身の本人がいるわけだし、逆らうわけにもいくまいて。


「し、下着も任せるよ。俺はそこで座っておく」


 キャミソールとかはさすがに見たくない。ゴルキチはスキンヘッドのいかつい顔をした筋肉だがキャミソールとか手に取って捕まらないのか心配だけど。まあ、いいか。



◇◇◇◇◇



 もう少し探索をしていたかったが、電波少女との待ち合わせもあるので宿の部屋に戻る。宿は幸いあと二日追加宿泊できたので、このままこの部屋でしばらく泊まることになる。

 ゴルキチには一応、電波少女のことをもう話をしているので突飛な話をされても混乱することは無いだろうと思う。いきなりオーラとか言っちゃう人だったから、事前に説明しておかないと驚くと思う。


 宿の食堂で飲み物を注文していると、待ち人がやって来た。


「こんちー」


 長い黒髪を両側でくくりつけたゴシック衣装、紫色のニーハイソックス姿の電波少女が約束どおり食堂にやって来た。

 ゴシック衣装が普通に存在する世界......生地は何で作っているんだろう。まさかナイロンは無いよな?


「こんばんわ。料理は何でも大丈夫?」


 電波少女を席に促し、料理の好みは無いか聞いてみるものの「何でもいいのの」とのことだったので、魚介料理を注文する。

 ゲームでの港町ジルコニアと同じく、南欧風料理がメニューに並んでいたので、魚介系のスープやパエリアなどを注文しておいた。


「んん、男の子のほうも少し変わったオーラが見えるのの」


 席に座るなり、ゴルキチを一瞥した電波少女は思案顔だ。ゴルキチを男の子と言う神経はなかなか凄い。


「オーラって一体どんなものが見えるんだ?」


「そうねね。人にはそれぞれ纏った空気みたいなものがあるのの。あなたも感じたことない? こいつは危険だとか」


 んー。掴みづらいが、緊迫感ただよう空気とか、強者のオーラとかそんなものかな。


「何となく、強者の空気とか感じることがあるかもしれない」


「人はそれぞれ生活し、その人なりの色がついていくのの。ただあなたたちにはそれがほとんどないのの」


 なるほど。そういうことなら意味がわかる。俺とゴルキチには現在代謝が一部ない。髪の毛は伸びないし、髭も生えてこない。

 ゴルキチと話しをしたときの可能性として、この体はキャラクターで、俺たちが入れ替わる際に生まれたのかもしれないってことだ。

 キャラクターならば人とは厳密に違うし、人生を歩んできた色も無いだろう。別の考えとして、キャラクター的なゲーム要素がこの体に絡んでいるのかもしれない。


「ふむふむ。そういった色をオーラと言っているのか」


「ちょっと違うけど、そう思っててもよいよよ」


 ふむ。人のオーラを見ることができる電波少女にお願いして、何か掴めないものだろうか。


「リベール。先に自己紹介したらどうだ? 申し遅れた、私はゴルキチと言う」


 ゴルキチが最もなことを俺たちに告げてくる。確かに、最初に自己紹介したほうがよかったな。


「俺はリベール」


「わたしはしゅてるんよよ」


 電波少女改めしゅてるんはぺこりとお辞儀する。俺もそれに対しお辞儀を返す。何か日本的な挨拶で疑問が少し沸いたが......


「しゅてるん、ベルセルクの名に覚えはないだろうか?」


 流れをぶった切り、ゴルキチがベルセルクのことを尋ねる。聞こうとは思っていたけど、しゅてるんなら違った情報を持っているかもしれない。


「ん、異名のことかなな。闘技場の狂犬は別名ベルセルクって呼ばれているけど?」


 狂犬だから狂戦士すなわち「ベルセルク」か。そうじゃないんだ。


「特殊な力を持った戦士といえばいいのか、緑のオーラを出して自身の力を高めることが出来る戦士なんだけど」


「ん、魔法みたいなものかなな。リベールたん、どうやって魔法を使えるようになるかご存知?」


 いきなりリベールたんかよ! まあいいんだけど。呼ばれ方は気にしない。魔法か、たしか職業案内所で転職すれば使えたが。


「何らかの儀式を行うとよいんだったか?」


 職業案内所とは言えないから、儀式と言葉を変えてみる。


「生まれながらに魔法を使える人はいないのの。そう、魔法使いになる儀式を行えば使えるようになるのの」


「ふむふむ。その儀式って?」


「儀式は魔法使いの組織に行ってお金を渡せば教えてくれるのの。一つ質問。儀式を行うと誰でも魔法を使えるのかな??」


 ゲームでは転職しさえすれば魔法は使えた。なら転職成功すれば誰でも使えるんじゃないか。


「儀式が成功さえすれば、誰でも使えるんじゃないかな」


「その通りよよ。成功すれば誰でも使えるようになるのの。ただ、成功しない人もいる」


 しゅてるんが言うには成功する人としない人がいるらしい。儀式の成否は「本当に魔法使いになりたい」という信念があるかどうからしい。

 魔法使いの話をはじめたしゅてるんの意図はなんだ? ん、まてよ。


「しゅてるんのオーラが見えるというのも、儀式の結果か?」


 ハッと気が付いてしゅてるんを仰ぎ見る。


「そんな難しいことじゃないのの。私は強く占い師になりたいと念じただけ」


 占い師か、ゲーム的に言えば強く念じることで占い師に転職したってことか。なら俺も出来るのか? そんな単純なことで良いのかとものすごく疑問だけど。


「なるほど、俺も今やってみていいかな?」


「お部屋でやったほうがいいのの。落ち着ける場所で集中しないとだから」


 言われてみればそうだ。精神統一しておくに越したことは無い。俺はしゅてるんにも部屋についてきてもらうようにお願いし、転職できるか試してみることになった。

さて、どうなることやら。

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