第18話 スカートがめくれる
最終目標は簡潔だ。俺とリベールとゴルキチが元に戻ることだ。
戻るために手段というか目標を整理しよう。一つは「天空王」にヒントをもらったゲームシステムとこの世界の関わりについて調査することだ。
俺が動作パターンを使えるのは「天空王」曰く俺だけの特技らしい。
何故俺だけが動作パターンを使えるのか、あの「天空王」が何故しゃべれるのか。
俺の場合は「天空王」曰く、システムに縛られた存在だがシステムを認識できる。
逆に「天空王」はシステムを外れた存在だから会話することができる。
システムの仕組みを解き明かすことで、俺とリベールとゴルキチが入れ替わった原因と解決方法が分かるかもしれない。これが一点。
もう一つは、ゴルキチの精神がどこに行ったかを探すこと。
リベールの入ったゴルキチから聞く話だと、リベールとゴルキチに面識が無く、ゴルキチは街に住む人間ではないらしい。街の人は誰もゴルキチのことを知らなかったというのだ。
ゴルキチ自身の情報が分かれば、そこから何等かのヒントを得ることができるかもしれない。
考えたくないが、俺の体もこの世界に転生しているかもしれない。もし転生していたとして、中身が誰かは分からないが......
最悪のパターンは、俺の体がすでに死体になっていて、体に入っていた誰かの精神も亡くなっていることだ。
情報が全く掴めてない以上、俺の体の問題とゴルキチの精神の問題はあまり推測するものではない気がする。
自分の考えに捕らわれ視野を狭めてしまう可能性があるからだ。
「ゴルキチ、旅の目的は簡単だ」
俺はテーブルの向かいに座り、ミルクを飲むゴルキチにゆっくりと話し始める。
「なるほど。すでに目的があるのか」
「簡単だよ。俺たちがゴルキチも含めて元に戻ることだ。これは入れ替わった全員の望みだと思う」
「なるほど。私も戻れるものなら戻りたい。あとは、君の体も見てみたい。どんな青年だったのか」
興味深そうに言葉を紡ぐゴルキチだったが、少し言い方がストレート過ぎて照れる。
そんな思いも無視して俺は言葉を続ける。
「戻るためにどう進めるかは二つ考えているんだ」
一呼吸置き、ミルクを一口飲んでから続きを話す。
「一つは分かりやすい。ゴルキチ自身の情報を集めたい」
ゴルキチの体で人の集まる場所に行って、自身の形跡を調べればゴルキチがどこで何をしていたのかが分かるかもしれない。
「ふむ。この体で聞き込みすれば分かるかもしれないな。ゴルキチがどこで何をしていたのかは私も知りたい」
ゴルキチは自身の体の情報を集めることには乗り気だ。
戻るためにゴルキチ自身のことを調べつつ、ゴルキチの精神を探す。入れ替わった人間全員集めておくほうが足らないよりはいいだろう。
ゴルキチ自身の情報から何か分かるかもしれないしね。
「もう一つは俺自身に何が起こっているのかを調べたい」
「君自身に起こってる事象?」
「ああ、俺の持つ技術のことだ。どうも使えるのが俺だけしかいないみたいだからね」
「君の舞は美しい。あのような舞、私はこれまで見たことは無かったよ」
熱っぽい視線で自動操作技術のことを語りはじめようとしたゴルキチを制止し、俺は続ける。
「天空王もどうやら何かヒントを持っているらしいんだ。天空王と話あった結果、彼......彼でいいか。彼と協力体制を持つことにした」
これにはゴルキチも驚愕し、固まってしまうほどだった。
モンスターと意思疎通し、かつ協力すると言ってるのだ。これまで生贄を捧げていたかもしれない憎い相手に。
「や、やつはこれまで幾多の生贄を喰ってきた龍だぞ! 分かっているのかリベール」
「話をしてみた感じなんだが、どうも奴自身が生贄を要求してきたように思えないんだよな」
いつ「天空王」が会話できるようになったか分からないが、奴が生贄を要求するメリットが全く感じられないんだ。
生贄を要求すること自体が、システムの影響を受けていたのかもしれないが。
どうもこの生贄は胡散臭い。誰にメリットがあるんだ?
ひょっとしたら街の権力者が自身の都合のために、生贄制度を作ったんじゃないかとさえ思えてくる。
「ゴルキチも奴と話しをしてみるといい。今言えることはこれだけだ」
「わ、私は例え憎き相手でも、き、君が言うなら、なんにでも従う」
筋肉男が照れて口籠っても全く可愛くないんだけど、少しドキっとしてしまったのは何でだろう。
ゴルキチとしか接していないから不明なんだが、男の仕草にこの体が反応してドキっとしているのか、そうではなくリベールという女子の精神にドキっとしているのか今一分からないんだよなあ。
もし、「男」にドキっといているのなら......いかん! これ以上考えるのはよそう。
「そういうわけなので、旅の支度をしよう。明日朝一で天空王の庭へ向かう」
「君は旅のことなんて分からないだろう。なあに私が全て準備してやろう」
ゴルキチは俺の頭をポンポンと軽く撫でて、明日の準備に向かってしまった。完全に子供扱いをされている......。
そうだ。全く考えていなかったが、俺はまともに野営一つすることができない。
よく一人で行こうと考えたものだ......自分で自分自身にあきれてくる。そう、俺にはゴルキチがいなかれば何もできない。
このことを再び俺は心に刻み込んだ。
◇◇◇◇◇
旅の準備を衣服まで含み全てゴルキチに準備してもらった俺たちは、デイノニクスが引っ張る馬車に全ての物資を詰め込んでいた。
「ゴルキチ、プレートメイル一式は置いていくぞ」
「仕方ない......なるべく荷物は減らさないとな」
ゴルキチは俺のために準備した戦装束を置いていくことになって残念そうだ。
プレートは重たいし、何より装着に難があるから、革鎧にすることになった。
もうあの羞恥プレーが起こることはないだろう。
俺もゴルキチも薄い革鎧に雨風用のマントと頭巾といった装いだ。いつものごとく俺はスカートだったんだが......。いずれズボンが欲しい。
ようやく準備が整った時にはもうすでに昼を過ぎていたが、急ぎ離れたほうがいいだろうと馬車を走らせることにした。
無事「天空王の庭」付近まで到着した俺たちは、遅い夕食をとっていた。
今日の夕食ももちろんゴルキチが準備したものだ。あまり物資も持ってきていないため、簡易的なパンとスープだけの食事になる。
食事の準備を終えて、さあ座って食べようとしたところ突如突風が吹き荒れる。
スカートが捲れてサービスシーンを提供する俺だったが、ゴルキチ以外見るものはいない。
何かあったのかとデイノニクスを確認するが、全くこの突風には反応していない。
ゴルキチが言うにはデイノニクスの敵感知能力は人間より優れていて、悪意あるものが接近するとすぐ騒ぎ出すらしい。
ということは危険が無いということなのかな。
「そういう時は、スカートを抑えて欲しい」
ゴルキチに苦言を呈されるが、抑えるくらいならズボンにしろよと突っ込もうとした時、頭に声が響く。
「迎えに来てやったぞ。人間」
どうやらこの突風の原因は天空王だったらしい。上空に目をやると大きな影が、地表から五十メートルほどあがったところに見える。
「俺の声がそこからでも聞こえるか?」
大声を上げるとモンスターを引き寄せる可能性があるので、普通の声量で「天空王」に話かけてみる。
「ああ、問題ない。儂は声を聞いているわけではないからの」
どういう理屈か予想が全くつかないが、「天空王」に通じているらしい。
ゴルキチを見ると声は聞こえていない様子だから、特定の相手だけに話ができる電話に近いものなのかもしれない。
「聞きたいことはいろいろあるが、おいおい聞きたいと思う。一つ願いがあるんだが」
「ふむ。生贄や動作パターンのことを聞いてくると思っておったがの。なんじゃ? 願いとは?」
確かに生贄や動作パターンのことは聞きたくはある。
これから「天空王」が願いを聞いてくれるなら、道中に聞けばいいと思っているんだ。
「一番大きな街へ連れて行ってほしい。もちろん、目の前まで行ってほしいといってるわけじゃないけど」
「ふむ。大きな街か。儂が知る限り、ここから四時間くらい飛べば近くまで行くことができるの」
とにかく情報を集めるには、単純だけど人が多いところで聞き込みをしたほうがはかどるはずだ。
俺の意図を「天空王」も分かったらしく、乗り気なように思える。
「行けるか?」
「問題ないの。馬車に小竜とそこの男も乗せるがいい。馬車ごと運んでやろう」
そう言って、「天空王」は地まで降りてくる。ゴルキチはさっきから固まったままで、デイノニクスはリラックス状態だ。
デイノニクスには「天空王」が敵意ないことが本能的に分かるのだろう。全く動じていない。
一方ゴルキチは、「天空王」に恐慌状態といったところか。
しかし馬車ごと運べるのか! ものすごいな「天空王」!
全長二十メートルを超える巨体を前にすると、小型自動車ほどの馬車なんてほんと小さなものだ。
馬車の屋根を持つと底が抜けそうと心配していたのだが、「天空王」は馬車を両足で挟み込み、馬車の底にかぎ爪をひっかけると翼をはためかせる。
「さあ、乗り込むがいい」
再度「天空王」に促された俺は、デイノニクスをまず馬車に入れてからビビるゴルキチの手を引っ張り馬車に押し込んだ。
まずは空の旅の間に「天空王」から情報をもらうか。
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