第16話 世界の真実とは?

「世界の謎? 話が飛躍しすぎて何のことかわからないな」


 余りに唐突だったので、いつ叩き潰されてもおかしくない状況も忘れて俺は、「天空王」に問いかけてしまう。


「ゆっくりと理解していけばよい。今は飛竜をやった後だしの。動作パターンとお主が呼ぶ法則は、知性のある者で認識している者がごく僅か」


「あなたのように例外的な龍や人間のように、元から知性のある生き物はどうなんだ?」


「其奴らは動作パターンを使えぬ。お主が例外だの」


 先ほど「天空王」は俺に興味があると言った。俺が動作パターンを認識し使えるからだ。どうも動作パターンと言うよりはゲームシステムに縛られると言ったほうがいいかもしれないなあ。

 とにかく情報が無さすぎるから、話が見えてこない。


「話が見えてこないんだけど、俺に何かさせたいのか?」


 そうしたら見逃してくれるのか......? 戦う気が無いと最初に言っていたが俺は全く信用していない。


「強制するつもりはないんだけどの。お主の目的は何になるのかの?」


「俺は......元に戻りたいだけだ」


「元に? ここに来る者で平穏な暮らしをしていたものなんでいるのかの?」


 俺の予想だが、「天空王」は少なくとも世界の秘密とやらの情報を少しは持っているだろう。俺の目的は、リベールか元の俺――竜二に戻ることだ。何故世界の壁を飛び越えてリベールになったかは分からない。

 しかし、ゲームシステムがこの世界に影響をしていることと無関係では無いだろう。ならば、戻るためのヒントを「天空王」が持っているかもしれない。藁をも掴む状況ではあるが、何もないよりはましだろう。


「そうじゃないんだ天空王。俺は元々この体の持ち主では無かった。それが突然この体になっていたんだ」


「よくわからんが、不可解な現象がお主に起こっているというわけか」


「どうやれば元に戻れるなんて予測はつかないんだけど、世界の謎を解明すれば分かるかもしれない。そもそもヒントが全くないんだよ」


「ほう、世界の謎を目的ではなく、道程と言うか。面白い! お主は面白い!」


 笑っているのだろうが、ビリビリと俺の体が震えるほどの咆哮をあげる「天空王」に、俺は内心かなりビビっている。


「興が沸いた。儂も元より世界の謎を解明すべく動いていたのだよ。お主に依頼しよう、世界の謎の解明を」


「依頼というからには報酬はあるのか?」


「ふむ。まずお主の身の安全を保障しよう。儂からお主を襲うことはない。もう一つ、出来ることがあれば協力しようではないか」


 愉快愉快といった感じで「天空王」は俺に提案してくる。協力といっても、人前に出て情報を集めるなど頼みたくないし、もし受け入れられて街に行かれても困る。そうなれば人と「天空王」の血で血を洗う戦いになるだろう。

 実際「協力する」といっても、頼む時には細心の注意をしなければとんでもないことになるだろう。しかし、「天空王」の協力は悪くない。むしろ渡りに船だ。


「了解だ。天空王。その依頼受けよう」


「ふむ。ならば明日この場へ来るがよい。お主に授ける物があるからの」


 その言葉を最後に「天空王」は羽ばたき始める。すぐに天へ登る「天空王」。警戒心がかなり薄まった俺は、雄大な空を翔る龍に見とれていた。




「リベール!」


 天空王が空に消えるのを待っていたのか、ゴルキチが俺の元へ駆けてきて、ギュッと俺を抱きしめる。


「よかった。よかった。君が無事で」


 いかつい顔から涙を止めどなく流し、ゴルキチは、きつく俺を抱きしめながら愛しそうに頭を撫でる。心配でここまで様子を見に来たのだろう。通常ここへは生贄本人以外来ることはない。だって一緒に生贄になってしまうから。


「大丈夫だって言っただろ」


 俺は照れながらゴルキチを抱きしめかえし、彼を安心させるように言葉を返す。


「火炎飛龍が倒れていて、神々しいスカイブルーの龍と君が対峙しているのを見て肝が冷えたんだ。本当に無事でよかった」


「あのスカイブルーの龍こそが天空王だ。意外なことに奴は俺と敵対する気はなかった。ただ......」


 俺の言葉の続きを待つようにじっとゴルキチは俺を見つめてくる。


「詳しくは戻ってから話をしよう。生贄は無事乗り切ったんだ」


「ああ、そうだな」


 ゴルキチも何か言いたげであったが、この場はこれ以上言葉を交わさず「火炎飛龍」の爪と角をはぎ取ってから、イチゴと戦士長の元に戻ることにする。




「リベールさん」


 戻った俺を見つけるや大きな目に涙をためてイチゴが駆け寄り、抱き着いてくる。ものすごい勢いだったのでよろけて倒れそうになったことは秘密だ。


「戦士長殿、無事奴を仕留めてまいりました」


 イチゴを張り付かせたままで締まらないが、俺は憧憬のまなざしを向ける戦士長に報告する。

 俺の報告に合わせてゴルキチが「火炎飛龍」の爪と角を掴み、討伐の証として戦士長に掲げた。


「リベール。君の勇気見せてもらった。来年からは生贄の儀式が行われないように私の権限全てを使って取り計らおう」


 戦士長は最大級の賛辞を俺に送り、生贄の儀式を今後行わないよう全力で取り組んでくれることを約束してくれた。


「一旦、館まで戻ろうではないか。その後のことはそこで作戦会議をしよう」


 戦士長の言葉に全員が頷き、俺たちは「天空王の庭」を後にした。

 戦士長はゴルキチの情報とこれまでの言動を見る限り、リベールの味方であろうことは推測できる。

 むしろ戦士長以外に味方はいないのかもしれないが......イチゴは味方になってくれるだろうがリベールの安全保障という面からでは全く力にならないだろうから、頼れるのは戦士長のみかもしれない......まあリベールの環境は詰んでいることは予想がつくので今更どうとでもない。



◇◇◇◇◇



 一晩野営をしてから、ログハウスに戻った俺たちだったが、とんでもなく困ったことが発生してしまった!


「リベールさん、一緒にお風呂はいろ」


 語尾にハートマークがつきそうな勢いでイチゴが俺の手を引く。ちょっと待ってほしい。リベールの体は不可抗力だ。だって、俺がリベールになってしまったんだから仕方ない。ゴルキチがいる前でイチゴとシャワーとかしゃれにならないぞ。

 ばれなきゃウハウハで楽しめたかもしれないけど、リベールが妹のように可愛がっていたイチゴと一緒にシャワーは、ゴルキチがいる以上無理だ。

 ちらりとゴルキチに視線をやると、何やら言いたいことがあるのかこちらを伺っている。


「あ、ゴルキチ、あれどこに置いたっけ?」


 手を引っ張られていたが立ち止まり、わざとらしくゴルキチに問いかける。ちなみに「あれ」の意味なんてもちろんない。察してくれよゴルキチ!


「あ、ああ自室だったんじゃないか」


「場所どこだったか覚えてるか? 教えてくれない?」


 ダメだ。リベール口調も真似できてないほどあせっている! 俺はゴルキチを伴って自室まで移動し扉を閉めた。


「ご、ゴルキチ! どうしたらいい」


 俺は、ゴルキチの手を掴んで焦っているのでそわそわしながらゴルキチに相談する。


「この際私は黙認するよ。君がイチゴの裸を見ることは」


 そう言ってくれるものの、ゴルキチの視線が痛い。痛いぞ。「私とちがって胸も......」ボソっと呟いてるゴルキチ。聞こえてるよ! おっぱいが小さいのは分かってるから。そんな気にしてたのか。

 もしここで「おっぱいの大きさなんて気にするな!」と言おうものならどうなるかは、さすがに俺でも想像はつく。


「な、なんとか乗り切れないか?」


「うーん、この際自分へのご褒美にしろ」


 ものすごく拗ねた顔で言われても、後ろ髪が引かれるどころか、引っ張られて抜けそうなんだけど。


「リベールさんー! 先行くよ」


 外からイチゴの声が聞こえてきた。このままここで過ごせば乗り切れるんじゃないか?


「断るのも良くない。私とイチゴが久しぶりに会って、生贄の儀式を乗り切ったんだ。イチゴがスキンシップを取りたい気持ちは分かる」


 ゴルキチが言うには、どこにいてもゴルキチと戦士長がいるから二人きりで話す機会が無いから、シャワーならと思ったのだろうということだ。さらに俺はイチゴと話しをするのをなるべく避けてきたから、よりその気持ちが強いんだろうと。

 リベールが妹のように可愛がったイチゴは、リベールの生贄間際でも話ができなかったから相当話たくて、ストレスが溜まってるのだろうと俺にも予想できる。


「仕方ない、本当に仕方なく、行ってくるよ」


 いかにも残念、本当にしょうがないという雰囲気を演出し、俺は浴室へ向かうのだった。あ、心では正直ウキウキしてます。イチゴはぺったんじゃないし。いや、大きくはないんだけどね。

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