第15話 激闘
「火炎飛竜」が浮かび上がるために、翼を羽ばたかすだけで炎が飛び散る。飛び上がり、翼を振ると火炎弾が高速で飛ぶ!
俺は戦闘用AIからいくつか指示が出るのものの、即決で次々にボタンを押していく。
右に走り、左に走り、時に立ち止まり、しゃがむ。そこを次々に通過する炎弾。地面に当たると爆発する炎弾であったが爆風も含め全て俺には届かない。
いかな「火炎飛竜」といえずっと炎を出しながら飛翔するのは体力を使うようで、高度が少しずつ降りて来る。
ギリギリ槍が届くかという高さまで降りて来るが、戦闘用AIが出した答えは伏せる指示だった。
俺が伏せると、頭の上を高速でかぎ爪が通過して行った!
どうやら長く飛ぶのを諦め、一気に加速したようだ。着地した「火炎飛竜」は一度吠えると、二足歩行で突進して来るが、俺は真横に転がりこれを交わす。
回転後槍を突き上げるとちょうどそこに「火炎飛竜」の胸がまたしてもカウンターで突き刺さる!
これで二度目のカウンター。奴の胸からは鮮血が噴き出す。
しかし、血はすぐに奴の炎で蒸発していく。血の蒸気を吐き出しながら、「火炎飛竜」は絶叫する。その隙を見逃さず、今度は太ももに槍を突き入れると、堪らず奴はよろめきながら後ろに後退するのだった。
ここで追撃の指示が出るかと思うと、逆だ。右へ走れと。
走り始めると背後に熱を感じる。どうやら口から広範囲の炎を吐き出したようで、地面が熱で溶けている。
ヒヤリとしたが、体は微動だにせず次の動作を待っている。
地面が溶け、炎の熱で激しい蒸気が沸き立ち、視界が悪くなる。
おそらくこれを利用して奴は仕掛けて来るはずだ。こちらが見えてないと思っているのだろう。その通り、俺は見えていない。俺はな。
俺は右前方へ勢いをつけて跳躍してくる!
対する俺は槍を突き出す。どうなったのか蒸気で見えないが、確かな手応えがある!
飛び上がり、弧を描いた「火炎飛竜」の胸に槍が深々と突き刺さっていた!
「火炎飛竜」の全力の突進力と俺の突進全ての力が、奴の胸に集約され、致命の威力となり槍が貫く!
大きな絶叫が響き渡り、数度体を痙攣させた後、「火炎飛竜」は完全に動きを止めた。
<戦闘用AI終了します>
脳内に戦闘用AI終了のメッセージが表示され、「火炎飛竜」を倒したことを告げる。
倒した!
何とか集中力を切らさずに倒し切ったぞ!
俺は全身で喜びを、歓喜の叫び声をあげる。ただ、声が可愛らしかったのがたまに傷だったが。
俺は倒れた「火炎飛竜」に目をやり、再度倒し切った喜びを噛みしめる。
これで生贄はクリアだが、街に戻っても生贄にされてしまった環境が待っている。恐らく既にリベールは詰んでいたのだろう。どうするのかゴルキチと相談せねば。
む、何だ。この音は。
「火炎飛竜」の爪を切り取ろうとした俺に迫る風を切る音。何か巨大な者が近づく気配がする。
見上げる。
あ、あれは。
全長は二十メートルと「火炎飛竜」より一回り大きく、皮膜で覆われた灰色の翼に雄大な体躯。体は空を彷彿させるスカイブルーの鱗で覆われる。瞳は赤く、口から鋭い牙が生える龍。
ネコ科のようなしなやかさを兼ね備えた気品ある姿に、ある種の美しさを感じる。
あれは、あれこそは空の王者!
「天空王」!
居たのか「天空王」。奴が俺の想像通りなら勝ち目は無い。
考えてみろ。生贄を要求する為には、生贄が何か分かるだけの知恵が必要だ。幸運なことに、「火炎飛竜」には知性は無かった。
もし、「天空王」が黒幕なら奴には知性がある可能性が非常に高い。
まだ距離が遠い。戦闘用AIの起動準備だけは行っておこう。
ついに「天空王」が地に降り立つ。ある種の美しさを持つスカイブルーの体躯には神々しささえ感じる。
戦闘用AIはどうだ?
脳内で戦闘用AIを確認しようとした時、声が響く。
いや、何処からも音はしない。頭に直接響く声だ。この場には俺と「天空王」のみ。ならばこの声は「天空王」か。
「人間よ。飛竜を倒すとは......本当に人間か?」
抑揚に「天空王」は尋ねてくる。まさに王者の風格た。
「ああ、倒したことに免じて見逃してくれないか?」
隠しても仕方ない。正直に言おう。
「飛竜には儂も手を焼いていてな。飛竜を倒したお主なら、儂に届くやもしれんぞ」
とんでもない。知性があるモンスターには恐らく戦闘用AIは無力だ。とてもじゃないが戦うことなぞ出来ない。
「いや、さすがにあなたには手も足もでないよ」
「飛竜を倒すほどの者にしては面白いことを言う。儂は飛竜を倒したお主に興味が湧いただけのこと」
「それはありがたい話だが、飛竜ならあなたでも倒せるだろう?」
「倒せはするだろうよ。ただ、無傷という訳にはいかぬ。傷を負ってまで倒したいとは思わぬよ。故にお主と戦う気も無い」
飛竜を倒せた俺だから、自身が傷付く可能性があると。とんだ勘違いだけど俺にとっては都合がいい。
なら、ここへ来た目的はなんだ?
「天空王よ。あなたは何を俺に求めている?」
「ほう、お主、儂が天空王だと分かるのか?」
何か不味いことを言ったか?
あいつの見た目は明らかに天空王だ。
あ、ああ。そう言うことか!
ゴルキチ達は誰も「天空王」の容姿を知らなかった。いつから「火炎飛竜」に生贄を捧げていたかは知らないが、そういうことか。
「ああ、分かるさ。そのスカイブルーの鱗は天空王でしかない」
「なるほどの。知っておったのか。なら、話が出来る天空王は何体いるか分かるかの?」
何だと!
話が出来ない「天空王」もいるのか、それは俺の知る「天空王」と同じ知性のない龍か。
俺は驚きで目を見開くと、「天空王」は更に続ける。
「儂の知る限り、法則のくびきを外れたのは儂だげだの。他の奴らは知らんがのう」
何故だか全く想像がつかないが、この「天空王」は知性がある。法則とやらが知性に関わっている?
「あなたのみが、会話出来る天空王ってことか」
法則とか謎の言葉が出ていて気になるがなるべく穏便に進めたい。何が逆鱗に触れるか分からないから。
「石を投げると落ちるよの。それが法則じゃ」
全然意味が分からないぞ! 石を投げると落ちるって物理か?
「あ、ああ。うん。火をつけると紙が燃えるのと同じかな?」
「然り。別の法則もあるの。魔法じゃ」
「魔法は使えないからよく分からないけど。手から火炎弾出したり、移動魔法かな?」
ゲームでも魔法はあったが、地水火風の弾を飛ばすことと、移動魔法という目的地まで一瞬で行けるものしかない。ここではどうか分からないけど。
「然り。なら本能に従う者たちにも法則があるのは知っとるな? お主、その法則を見抜いて飛竜を倒したよの?」
「なに!」
モンスター達もプレイヤーもゲーム内ではもちろん動作パターンは決まっていた。それはゲームだからだ。現実世界なら自由自在に動けるはずなんだ。
「蜂蜜熊」にしても「火炎飛竜」にしても、動作パターンがゲームと同じだった。だから戦闘用AIで倒せたんだ。
「天空王」が言うには、これも法則なのか。
「しかしの、中にはこの法則のくびきを外れる者がいるのだよ。儂のようにな」
「天空王」は本来法則とやらに縛られる存在だが、この「天空王」はそうではない。法則を外れ、知性がある。なら知性が元からある人間も法則に縛られないのか?
「なら人間のように知性がある者達は、その法則とやらに縛られないというわけか?」
「少し違うが、今はそう考えておくといいかのう。儂が言う法則は理解したかの?」
「俺の言葉に言い直すぞ。物理法則、魔法、そして動作パターンだ」
しかし、俺は動作パターンを使える。脳内のモーションパターンのお陰で。
ゴルキチ達はどうなんだろうか?
「儂が興味を持ったのは、お主が言うところの動作パターンを、お主が読み取り、使えることじゃ」
よく見てるな。相手の動作パターンを戦闘用AIが読み取り、モーションパターンで動作パターンが使えるのだ。
この言いようだと、ゴルキチ達は動作パターンを使えないのか?
「本能に従う者たちでも使えるものだ。珍しいことじゃないだろ?」
誤魔化そうとした俺を鼻で笑う「天空王」は続ける。
「お主なら、世界の謎を解けるかもしれんて」
話がいきなり壮大になってきたな。世界の謎?動作パターンがか?
俺と「天空王」の問答は続く。
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