第14話 決戦

 俺たちは今「天空王の庭」を四人で歩いている。いよいよ以前ゴルキチに手で制された地点まで来る。


 勝てる。俺ならばきっと。戦闘用AIが指示する通りに選択すればいいだけだ。

 マニュアル操作モードの場合選択肢が二つ以上のことがある。もし、二つ以上指示された場合も迷わず即決する。脳内で先に目がいったほうを押す。迷うな。迷って動かなければ待つのはゲームオーバーだ。


 俺が内心で集中を高めているとどうやらお別れの地点まで着いたようだ。


「リベール、ここからはお前一人だ。健闘を祈る!」


 戦士長が俺の手をしかと握りしめ激励してくれる。戦士長もきっと信じたいのだと思う。俺が奴を倒すことを。悪夢の生贄をもう終わらせてくれると。


「リベールさん」


 目に涙を浮かべながら、お下げ髪ことイチゴが俺に抱きついて来る。残念ながら身長は同じくらいなので、あまり絵にならないかもしれない。

 プレートメイル越しにおっぱいが当たるが、プレートメイルが邪魔して何も感じ取れない。こんな時くらい良い目見させてくれてもいいのに。

 こんなことを考えたおかげで少し落ち着いた。イチゴありがとう!

 イチゴの髪をレザーグローブ越しに二度ほど撫でると、体を離す。


「ゴルキチ......」


 俺は目を赤くしたゴルキチを見つめる。また泣いたのか。その体じゃ似合わないぞ。

 俺はゴルキチの大きな背に腕を回し、しかと抱きしめる。ゴルキチも抱きしめ返して来る。見上げるとゴルキチの顔が近い。厳つい顔だなしかし。世紀末に出てきそうだよ。こんなスキンヘッド。

 でも間近でこんな顔を見てるのに、俺の心は澄んでくる。


「リベール。どうか、どうか......」


 ゴルキチの声は途中で言葉にならなくなっている。そんな声出すなよ。

 なあに少し運動してくるだけさ。


 俺はゴルキチから離れるとコツンと彼の胸を叩く。


「そんな顔をするな。軽い運動だ」


 ゴルキチに虚勢をはることで自分自身を鼓舞する。

 そうさ、勝率は百パーセント!

 やれる!


「行ってくる。必ず戻って来るから待っていてくれ」


 ああそうさ、必ず戻る!

 こんなクソッタレな儀式潰してやるさ。

 俺がリベールになったのは何故だ?

 簡単だ!

 俺ならば奴を倒せるからだ!



◇◇◇◇◇



 「火炎飛竜」が潜む「龍の巣」は大きなクレーター状になっているため、外周の影に潜み「火炎飛竜」が戻って来るのを待つ。

 ゴルキチが言ったとおり、この時間は巣には居ないようだ。


 待つこと約一時間。緊張のため途中でトイレに行きたくなった時が困ったが、ガーダーの紐をちゃんとパンツの下に通していた為、大事には至らなかった。最初ゴルキチに着けて貰った時は何でパンツの下に紐を通すのか分からなかったが、そういうことだ。


 風を切る音が近づいて来る!

 いよいよ「火炎飛竜」が巣に戻ってきた。まずは戦闘用AIをマニュアル操作モードに設定する。


 戦闘用AIマニュアルモード起動。対火炎飛竜。両手槍モード。


 地形データを読み取り、「火炎飛竜」の全身を読み取り、俺自身の全身を読み取る。


<全てのデータを取り終えました。戦闘用AIマニュアル操作モードにて起動します>


 俺の脳内にボタン操作のウィンドウが展開する。ここに出てきた操作候補を俺自身で撰び取る。


 マニュアル操作モードは、機械ほど迅速に入力が出来ないので、動き方が自動操作モードと異なる。

 マニュアル操作モードでは、攻防一体の動作ではなく、攻撃を受けない安全な位置に移動させる動きをする。攻撃しても安全ならば攻撃を行うのだ。

 大雑把な動きになる為、モンスターの動きさえ把握出来ていれば使用することが出来るが、複数の選択肢がある為マニュアルでの操作しか出来ない。


 自動操作モードはここから更に多数のデータ取りと調整が必要になる。残念ながら両手槍ではデータが無いし、両手斧はデータがあるもののスキルが使えないため使用出来ない。

 データを集めるためには三桁を超える試行錯誤が必要だから、今からデータを集めることは不可能なんだ。

 だから、次善のマニュアル操作モードで今回は戦闘する。


 「火炎飛竜」は、コウモリの様な大きな翼に長い首。大きな嘴には鋭い牙が並ぶ。鋭い爪が四足に付属しており、爪に抉らればひとたまりもないだろう。全長は翼を広げて十五メートルもあるから、

乗り掛かられるだけで終わる。


 「火炎飛竜」がゆっくりと空から巣に下降する。ゴルキチの情報によると、恐らく食事を終えて戻ってきたのだろう。


 奴が寝入るまで待ってもいいが、変わるのは初撃のみで、一撃であの硬い真紅に染められた鱗を貫くのは困難だ。

 むしろ、奴の目の前で待機する緊張感による精神疲労のほうが俺にとってはデメリットが大きい。疲労は判断を鈍らせる。


 ただ、蜂蜜熊でマニュアル操作モードの戦闘のやり取りに慣れたものの、蜂蜜熊はたかだか四メートル。奴は十五メートルもあるんだ。しかも、名前の通り火炎を操る。緊張感と恐怖心が段違いだ。

 俺はゴルキチの前で全裸になった事を思い出すと、とたんに羞恥で緊張感がほぐれてくる。図太くなったもので、緊張感がほぐれると恐怖心も薄れてくる。


 よし、行こう!


 ゲームスタートだ!


 マニュアル操作モードでも体のブレは一切ない。俺が脳内で入力した操作以外体が受け付けないからだ。


 俺は「火炎飛竜」へ正確に同じ歩幅で駆けると背中から両手槍を引き抜き、まさに地へ足がつくところの奴へ槍を突き上げる。

 奴の背後から尻尾の付け根あたりに槍が当たるも手応えは薄い。厚い真紅の鱗で槍が滑ったからだ。

 俺に気付いた「火炎飛竜」は体を反転させ俺と向かい合うと、大きく息を吸い込む。


 戦闘用AIが出した指示は二回突き上げてからしゃがむだ。

 大丈夫か、炎を吐くんじゃないか?

 ここでしゃがむとか不味くないか?


 一瞬頭をよぎるも、俺は槍を奴の腹に突き上げる!突き上げる!

 痛みか怒りか分からないが、奴の頭は天へ向かって、怒りの咆哮をあげる。

 俺自身は奴の咆哮に萎縮するも、体は全く動じない。

 上を向いて咆哮を上げたため、多少体に音の衝撃を感じるが体は微動だにしなかった。


 次はしゃがむ。

 次の瞬間、頭の上を「火炎飛竜」の足が通過する。風圧を感じる背中に心臓がバクバクいっているが体に震えはない。

 どうやら、奴は小賢しい人間の頭を蹴り上げようと足を振るったようだ。


 「火炎飛竜」は足が空振りすると、翼をはためかせる。これに戦闘用AIは立ち上がった後、前か斜め後ろに二歩、一秒待機と指示が来る。迷わず前を選ぶと、振り向けと指示。


 「火炎飛竜」は浮き上がるとボバリングで後退し、高く飛び上がる!

 目にも止まらぬ速さで視界から消える「火炎飛竜」は弧を描く動きで、俺から見て右に大きく飛んだため、見えなかったのだ。見る必要はない。


 前へ二歩出ると、待機。

 真後ろに風を感じたが、振り返り槍を斜め右に突き上げる!

 すると、槍は「火炎飛竜」の弱点の一つ柔らかい胸に突き刺さる!

 ちょうど、俺の後ろを抜けた「火炎飛竜」は、折り返し足のかぎ爪で俺を引っ掻こうとしていたらしい。

 勢いのついた奴の体に、槍がカウンターで入ったというわけだ。

 「火炎飛竜」は胸と太腿の鱗が薄い。弱点にカウンターで槍が突き刺さったのだから、それなりにダメージが入ったことだろう。


 不味い! 「火炎飛竜」の身体が身震いし始める。戦闘用AIの指示は十歩後ろへ駆けろ! だ。


 急ぎ後退する俺の背後で、奴の絶叫とも取れる咆哮が響き渡る。振り向くと、翼が紅い炎に包まれていた。


 これこそ「火炎飛竜」と言われる所以、炎を纏ったモード。


 戦いは激化していく......

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