動かぬ者の末路
お題は「靴」「岩」「言葉」
僕は何気なく足元の小石を蹴飛ばした。それはコン、と耳障りな音を立て、少し前方に埋まっている巨大な岩に当たって横に弾け飛んだ。
靴の先に、こすれたような傷が残った。
ため息が漏れた。
僕はこの先、どうすればいいのか。
これまで僕は敷かれたレールの上をほぼ何の疑問もなく走ってきた。だが二十二歳になり、大学という与えられるだけの世界から強制的に放り出された。僕はまだ、社会という大海原に出る準備が全くできていなかった。まっすぐに伸びていたレールは、途中でぷっつりと途切れていたのだ。
夢ばかり見て、上ばかり見ていて、先のレールが途切れていることに気が付けなかった。
途切れた先のレールは、自分で創らなければならなかったのだ。
そのことを僕は分かっていなかった。
周りの大人は、よくこう言っていた。
夢をあきらめるな、諦めなければ必ず叶う、と。
彼らの言葉を鵜吞みにした僕は、途切れた部分のレールを敷く事すらできず、見事に脱線してしまったという訳だ。
もともと引っ込み思案で口下手だった僕は、どの会社の面接でも必要以上に緊張し、まともに質問に答えることすらできなかった。だから当然と言ったら当然だが、ことごとくすべての会社で不採用の通知を貰った。
定職にも就けず、かといって手に職がある訳でもない。
どうやって生きていけばいいのか分からなくなった。
僕には社会適応能力が無いのだ。
次第にそう感じるようになってきた。僕はバイトへ行く以外、買い物を除いてほとんど外出しなくなっていた。
僕はあの小石と同じだ。社会という大きな岩にぶち当たって弾かれた。
少し目頭が熱くなった。
僕は弾かれた小石を拾い上げ、語りかけた。
「君はまるで、僕自身だね」
言葉にした途端、周りの景色が一変した。
見渡す限り小石だ。視界全てを灰色の小石が埋め尽くしている。視点が妙に低い所為だ。
僕ははっとした。そして恐ろしい事に気がついてしまった。
僕はどうやら小石になってしまったようだ。
「馬鹿げている」
声にならない声、つまり心の声で僕は呟いた。
「ほんと、馬鹿だよ、お前」
聞き覚えのある声がした。振り向くと、黒い何かが二つ視界に入った。見覚えがある。あれは僕の履いていた靴だ。
上を向くと、そこには僕がいた。
岩に背をあずけて生意気に腕を組み、口元に不気味な笑みを浮かべている。
そして僕を蔑むように見下ろして、こう言った。
「どうせ何もしないなら、俺がお前の代わりに生きてやるよ」
三題噺ショートショート集 さちな @Sachina
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