俺はいじけたい

 先生方の視線を受けた俺たち(多分俺)は、ひとまず廊下に出た。

「さてこれからどうしようか」

「とりあえず生徒会室に戻ろうぜ」

「そうですね。それから作戦会議です」

 いやなんの? ヤシマ作戦でも発令しちゃうの?

「決まったならさっさと行かないか」

 それからの生徒会室に行くまでの時間があれだった。

 何があれかって、もう色々ありすぎて何だったか忘れるレベル。

 人間ってのは辛いことを忘れて生きていく人間だって、優紀思います。

 それはさておき、こやつらはとにかくしゃべる。

 快と、唯月は元々友達と呼べる仲であっただろうからいいが、黒雪の馴染む速さは異常。新幹線やのぞみ、リニアすらも超える速さ。毎ターン、サイコロ20個ぐらい振ってんじゃないの? 1ターン目で目的地に到着ですね。これにはさすがのさくまも負けます。

 ええ、つまり三人で話しているのに夢中で、俺に話題も振らないし、気付いてすらいない。空気になっているのではないかと思っています。

 ここで、俺が後ろから驚かしても、いたの? ならまだしも、会話に夢中で俺の言葉にも気付かない可能性が大。

 いやいいんですけどね。ほら、だって俺、あんまり人と話すの得意じゃないし、全く悲しくなんてねえし。

 だから例え、歩く速さが遅すぎて俺が追い抜かして、気付かれなくても全然大丈夫だからぁ……。

 俺が生徒会室に着いて5分が経過し、いじけて寝てやろうかと思ったときに、ようやくあの御一行が来ました。

 助さんや、角さんや、あの人らの終わらない話を止めてきなさい。

 いや、こちらには助さんも角さんもいなかった。もちろん、紋所もあるはずがなく、寝るふりをした。

「あれ、優紀くん寝てる」

 幸い、気付かれていないようだ。しかし、そう思ったのもつかの間、俺の背中に指をつんつんしてくる輩がいた。俺はおでんじゃないぞ。

「松田さん何してるんですか」

 この声は黒雪だ。

 なるほど、じゃあ後ろのやつは快か。ならば、ここから振り向きざまに一発かましてやろう。そう逡巡していると、指が1本から2本に増えた。

「唯月さんまで何やっているんですか」

「ちょっと楽しそうだったから」

 これは困った。和葉にはできん。仕方がない、起きるか。

 少し驚かそうと思い、早く頭を上げると、目の前に何か物体がある。

 コンマ5秒後、それが何か分かった。

「『うわっ』」

目の前にいたのは、黒雪だった。

「いやこ、これはべ別にそういうのじゃなくてですね、あの、えーっとあれですあれ、あれなんです」

 相当驚いたのか、顔を真っ赤にさせながら必死に弁解をしようとする黒雪。冷静であれば、この状況を楽しみ、あれってなんだ? などと言いからかったのかもしれないが、今の俺にはできなかった。冷静でもしなかったか。

「別に大丈夫だから気にしないで、と、とにかく落ち着け」

 俺も黒雪も深呼吸をした。

 そのときに、後ろから声が聞こえてきた。

「一応言っとくけど、黒雪さん、優紀を覗き込もうとしていただけだから」

 それを言ってどうなるんだ? それより、全く黒雪が落ち着いていない。まあ、当たり前といったらその通りだが。現に、俺も焦りまくっている。これから舞染について話さなきゃいけないのにどうしたらいいんだ。

 それから、たっぷりと10分ほど経った頃、ようやく落ち着いた。黒雪の顔は、まだ少しだけ赤いがそれは気にしない。

 和葉たちを見てみると、二人は話していた。その後、視線に気づいたのか、俺の方を向いた。快は呆れ顔。そして唯月も、しかし、呆れているはずなのに、こちらはさらに何かがプラスされた、大変表現に困る顔をしていた。

 俺はどうしたらよいのか分からず、しばらく視線を右へ左へ彷徨わせていたが、もちろん何かがあるはずもなく、刻一刻と時間だけが過ぎていった。

 冷静に考えろ、黒雪はようやく冷静になったようだが、ここで俺が話しかけたら、また同じことになるかもしれない。俺って嫌われているのかな~。

 唯月もなんか面倒になると、俺の本能が告げている。消去法でいくと快だな。

 俺はうろうろさせていた目を快に向けると、席を立ち、歩いた。

「なあ、快、俺はどうしたらいいんだ。はっきり言って、どうしてこうなったのか、見当もつかないんだが」

 いやほんと、どうしてこうなった。唯月はまあよしとして、黒雪はピュアすぎて恐ろしい。

「どうしたらいいのか俺には分からないわ。そして、もういろんなことがめんどくさく感じる。だから俺はもう帰るな。明日からは休日だから、いつ話しあうのかメールで送ってくれ。じゃあな」

 快はそう言って、一目散に帰ろうとした。もちろん俺は腕を掴もうとしたが、すんでの所で逃げられてしまった。扉を開けたまま。

 さて、どうしようか、よし、俺も帰ろう。そう決意し、荷物を持とうとすると、横から視線を感じた。俺は手を戻し、椅子に座った。

 さて、どうしようか、というかどうしたらいい? 帰ることはできない。そして、黒雪は落ち着いて外の景色を見ている。唯月は小さいクマの絵がある手帳に何かを書き込んでは、俺をチラッと見る。そして、また書き込んでいる。

 唯月の変な行動を除けば、悪くない雰囲気だ。しょうがない、日暮れまでは後1時間弱あることだし、本でも読んでいよう。

 そして時間はみるみるうちに過ぎていき、本の残りのページ数があと50ページというとき、時間は6時に差し掛かった。

 そのときにはすでに日は暮れ、そのくせして電気も付けなかったので文字も読みにくくなり、諦めて本をバッグに入れた。

「もうそろそろ今日は帰らないか? 日も暮れたことだし、土曜日とは言っても、明日もやるんだろ?」

「そうですね、では帰りますか」

「あっ、鍵は私が返しておくから、先に2人とも帰ってて」

 唯月はそう言ってから、テーブルの上に置いてあった鍵を持った。

 俺も黒雪もそれぞれ、頼んだ、ありがとうございます、と任せて、そのまま3人とも生徒会室を出た。その後、玄関前で唯月と別れ、黒雪と外に出た。

 グラウンドには、まだサッカー部が活動していて、その中には快の姿も見えた。

 あいつ、こっちにも顔出してて大丈夫なのか? というように心配とも呆れともつかないようなことを思った。

 そんなことよりも、黒雪の家ってそういえばどこなんだろうか? だが聞きづらい。そんなにストレートに家どこって聞いても、不審がられるだろうし。

「そういえば、相原さんってどこに住んでいるんですか?」

 ねえ、この人、人の心読めるんですか? ちょっと本気で怖い。それにあまり聞かれても違和感無い。これこそが人徳のなせるわざですか?

 ただまあ、隠しておくことでもないので言うことにした。

「○○市って知ってるか? ほら、えーっと、ここから少し進んだ辺りにある駅、あそこからいつも乗って帰るんだ」

「えっ、○○市って私の住んでいる隣町じゃないですか! 意外と近かったんですね。驚きました」

 …ああ神よ。これって運命なのだろうか。運命でないのであれば、俺の目を覚まさせてください。

 …よし、何も起こらないな。よか『バンッ』「グベラァ」

「きゃあ~、あ、相原さん、大丈夫ですか。起きてください、死なないで。お願いですからぁ」

 どうやら俺はサッカーボールが頭に当たって倒れたみたいだ。

 ありがとう黒雪。俺のことを心配してくれて。だがこれぐらいじゃ、スぺランカーでもないんだし死なないぞ。

 少しずつ薄れてゆく意識の中で、フラグ立てはもうしないでと、未来の自分へ切実に願った。あっ、これもフラグ立てでしたね…パタッ

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