俺の情報収集
俺らは、電話を借りに職員室に行くことにした。
職員室の前まで来たときに緊張感が募ってきた。自分が何か悪いことをしたように思えてくる。しかし、そう思っていたのは俺だけのようで、周りを見ても輝きは薄れていなかった。
快が扉をノックする。中からはどうぞ、という声。ノブを回し、扉を開ける。
中に入ると、意外にも緊張感は無くなったように思える。他の先生は部活に出ているからだろうか、人はまばらにいるだけだった。
後ろを見ると、先生が目だけで合図を送ってきた。どうやら、俺に言うよう仕向けているらしい。顎で使う気か、とも思ったがこれぐらいは会長として言わないといけないか。
近くにいた眼鏡を掛けた初老のおじさん先生に、すいません、と声を掛けた。
「そこにある電話を使ってもいいですか?」
「ああいいよ」
許可が取れたので、電話の前に立つ。よく考えたら、おじさん先生に言わなくても、すぐ近くに、若くあろうとする先生(恵先生)がいるんだからよかったんじゃね。
後悔先に立たず。気にしないでおこう。
「先生、番号教えてください」
「ああいいよ、私が電話するから」
俺が場所を譲ると、先生は番号を押し、スピーカーホンも押した。
プルプル、プルプル。着信音が鳴る。
四回目になろうかという時に、もしもし、と若そうな男性の声が聞こえる。
「もしもし、私は舞染さんの顧問を務めております、原恵と申します」
「私は、舞染のマネージャーをしております、辻内京介と言います。それでご用件は何でしょうか」
努めて冷静な事務的対応だ。
「それがですね、舞染さんが元気がないようで、生徒たちが何とかしてあげたいと言うものですから、何か舞染さんが喜ぶようなものとかあったらお教えいただけませんでしょうか」
直後、ふっ、という声が聞こえてきた。
「ありがとうございます、最近、舞染との電話でも元気がなさそうだったので、どうしたのかと心配していたんです。でもそれは杞憂でしたね。生徒さん達にありがとうと伝えておいてください。それと、舞染の好きなものというと、うーん、確かうさぎのぬいぐるみとかだったような気がします。意外と乙女なんですよ」
声の調子が明らかに優しそうな感じに変わった。本当に心配していたんだ。いいマネージャーさんだな。
「生徒たちに伝えておきます。ありがとうございました」
「もしなにかあったら、遠慮なく教えてください。私にできることであればやりますので。さすがに事務所は東京にあって遠いので、電話の方がいいと思いますが」
「ありがとうございます、さようなら」
受話器の奥からもさようならという声が聞こえ通話は終了した。
「ありがとうだって」
先生、今俺たち聞いてたんで、言う必要皆無です。
「マネージャーさんが優しそうでよかったです」
「そうだよね」
「そうだよな」
三人とも、軽くスルー。
先生は俺の方に顔を近づけてクル―。
距離が近い近い。スキンシップがすごいから。それに甘い香りが漂ってきて結構クル―しい。
「ありがとうだって」
先生はどういう反応を求めているのでしょうか。俺には全く理解できません。
ということで、当たり障りのない言葉を言っておく。
「そうですか、それは嬉しいですね」
「そうだね」
正解を選んだみたいだ。多分、誰かに反応してほしかっただけだろうけど。
少し、周りを見てみると、咳払いがひとーつ、ふたーつ、みっつ、よっつ。
俺らは招かれざる客ということか、これは殺人事件の匂いがプンプンする。叙述? 数珠つなぎ? それとも無差別? 推理漫画の見すぎですね。
咳払いについては他も気付いたようで、そそくさと職員室を出た。
なお、原先生については、職員室を出る前に、校長と思われる人物に呼ばれていた。
先生が顔を赤くしていたことについては、見ていないことにしておこう。
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