俺の恥ずかしさ
5分ほど経って、教室に快が入ってきた。
落ち着いたのか、快はなんだか満足そうな顔をしていた。
「快ってビビりだったんだな。長い間いたけど気付かなかったわ」
俺がニヤニヤして言ったら、目の前の人物は可笑しそうに笑った。
「何言っているんだ? 俺がビビりだって? そんなわけないだろ」
「だってお前すぐに教室を出て行っただろ」
快はさらに笑いだした。
「ああそれな、お腹が痛くなったんだ」
はっ?
今の言葉を理解することが出来なくて、口を開けたまま固まってしまった。
それを見て、ついに我慢が出来なくなったのか爆笑しだした。
「なんだその死んだ魚みたいな顔して、ぷかぷか浮いているのか?」
こいつには勝てないわ。
「恥ずかしさという感情はお前の中にないのか」
「そんなもの母親の胎内に置いてきた」
なんか話が嫌になってきた。
それと同時に斜め後方から嫌な視線を感じた。俺のレーダーに勝とうなんて百年早いわ。
ただそれを迎撃するものは無い。つまり超高性能レーダー搭載の段ボールという訳だ。
この段ボール、これからどうするのかと言えば、方法は二つ。
無視か逃げる。
男としてもうこれ以上逃げたくないな。なので快と話し、入ってくるなオーラを出して近づかせないようにする。
俺は勝ったと拳を握った。
顔を上げると快の視線は俺の斜め後方にいっていた。そのまま後ろにバックステップ。
「ちょっと待て、行くな」
「俺急用思い出したわ。放課後、生徒会室に行くからそこで作戦会議な」
そういうと、裏切り者は一目散に廊下へ出て行った。
……よし、前言撤回。俺も逃げる。
俺が席から立った瞬間、肩に何者かが触れた。
どんだけ俺のことが好きなの? 煮ても焼いても美味しくないよ。
観念して後ろを向いた。
「やあ、奇遇だね、相原くん」
俺は今すぐ奇遇という意味を国語辞典で調べたいという衝動に駆られている。
「何の用だ」
「大体見当は付いているんだけど、君の顔はどうしてしまったんだろうと気になって気になって夜も寝られなかったんだよ」
気付いたのもちろん今日だよね。昨日いなかったよね。ストーカーじゃないよね。
止めて、怖い。こっちが夜も眠れなくなる。
「別になんだっていいだろ。それに、多分お前の考えていることが答えだ」
「そうかい? それで君はその出来事で変わったんだね」
今日はいつもより踏み込んだ質問をしてきているような気がする。
「さあどうだろうな、変わったとしてもお前に言う必要はないから」
「相変わらず釣れないな~。そういうところも面白いんだけどね。じゃあ僕はこれで失礼するよ」
「お前に聞きたいことがあるんだが」
「珍しいね相原くん、大抵のことなら答えてあげるよ」
「人と上手く馴染めない人を助けるにはどうしたらいい」
「知らない」
少しも考える素振りがなく答えてきやがった。お前答える気ないだろ。
だから俺は恨みを込めた視線を送ってやった。
「いやいや、ごめんって。でも僕には分からないから。ただ、このことを考えるのはやっぱり君が一番ふさわしいんじゃないかな。それに僕が何か言ったってどうせその通りにしないでしょ」
なんか違う。全然違う。こいつこんな奴だっけ。
違和感を拭いきれないが、気にしてもしょうがない。
「ああ、ただ聞いただけで、参考になんて全くしない」
沢中は微笑をたたえた。あの嫌な笑いとはどこか違う笑顔だった。むかつきはしたが。
「君はやっぱり面白い、僕とは全然違う。それでも少しだけ、心の奥深くの本質みたいなものが僕と似ていると思うんだ」
「馬鹿げたことを言うな。俺とお前は全く違う。ずっと平行線だ」
ちょっと見直したらすぐこれだ。似ている訳がない。人とは出来るだけ干渉しないし、含みがある笑いもしない。第一もてない。
これだけは少しだけ似てほしいなと思うんだが……。
運動神経、勉学ともに平均以上だし、顔だって自分で言うのもなんだが平均以上だと思っている。一人暮らしが出来るように、洗濯や掃除、料理だってできる。欠点といったら、小説やラノベばかり読んでいる、アニメばかり見ている、ネガティブ思考だらけ。
……俺が女子だったらこんな人とは付き合わないな。
「ふふ、君にとったらそうかもね。……僕ももうそろそろ席に戻るよ」
沢中の方は見ずに首を軽く振った。なんだか気に食わない。
横目で沢中を見ると、やはりニヤニヤしていた。
ほんと、面倒な奴に目を付けられたもんだ。
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