俺は向き合えない
自転車を持っていこうと思ったがそういう雰囲気じゃなかったので置いてきた。
「それで一体どうしたんだ。愚痴でもいいから話してくれ」
きっと文通で知っているくせに、自然に言ってきた。
「だから特に何もない」
「じゃあ、俺の話を聞いてくれるか? 俺の友達が、友達を助けたいと言ったんだ」
「分かった。分かったから」
「どうしても言いたくなかったら言わなくてもいいぞ」
今さら何だ。じゃあ言うな。
「……舞染がな、人との関わり方が分からないみたいなんだ。俺たちが修学旅行の話をしていたら、いきなり生徒会室を出ていったんだ。中学校か何かで、アイドルが原因なのか人と上手く接することができなかったんだと思う。あくまで俺の勝手な考えだが。それで、黒雪と唯月が助けると言ったんだが、俺はもしもの責任を負える自信がなくて断ってきた。それで俺は生徒会室に行きづらくなって今の状況にいたる訳だ」
学校のことは一応のため伏せておいた。
快は目を閉じしばらく考えていたが、目を開け、口を開いた。
「あのさ、結局お前はどうしたかったんだ。助けたかったのか?」
「もちろん助けたいに決まっているだろ」
なんだろうかこの違和感は。いつもの快と少しだけ違う気がする。だからといって違いを答えられるわけではないけど、とにかく何かが違う。
「じゃあなぜ助けようとしない?」
「だから、責任を負えないからだって言っただろ」
いきなり声を荒げた快の顔がみるみるうちに赤くなるのを感じた。
「お前はもっと優しかったはずじゃないのか、責任どうこうのじゃないだろ。やりたいことをやればいいだろ。お前はそうやって逃げるのか。辛いことから、苦しいことから、悲しいことから。……逃げたいなら逃げればいい、だがな何も求めるなよ。お前がやらないなら俺が助ける。責任でもなんでも一生負っていくさ」
「いきなりなぜ怒る。お前が聞きたいと言ったんだろ」
「話が変わった。優紀、お前のヘタレ話を聞いてからな」
俺は快の言葉を聞いているうちにだんだんと胸が痛くなって、気付けば快の顔をぶっていた。
「普段は逃げるくせにそういうときだけ戦うのかよ。笑わせんじゃねえ」
快はすぐさま立ち上がり、思い切り頬を殴ってきた。
俺もまた殴りそのまま取っ組み合いになった。
何も考えずにただ、目の前の相手を倒そうとした。だが、運動部には勝てなかった。
俺は仰向けに倒れ、全身いたる所を殴られ、口は切れて鉄の味がした。そのせいでとても立てそうにもなかった。
周りから音は聞こえない。ただただ俺たちの荒い息が聞こえるだけだった。
横でよろよろしながらも立っている快は、俺ほどではないにしても顔に痣ができていた。見るに堪えないぐらいだ。ということは、もちろん俺はそれ以上なんだろう。
俺は心だけじゃなく体も弱いな。ほんと、まったくどうしようもないな。
空は、夜にしてはまだ明るく、月の周りに群がるように満天の星空が光り輝いていた。
俺は星空かな。月のように輝くことはできない。だからといって何も持っていないわけではない。
自分のこの苦悩が、曖昧な光の星にぴったりだと思った。
そこで俺の意識は途切れた。
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