俺は変わる

俺は決める

 どれくらい経ったか覚えていない。たった数秒な気もするし、数十分な気もする。

 気付けば俺は立っていて、快が俺の右横に立っていた。左を見ると、和葉が座っていた。

 周りの景色が大して変わっていないということは、俺が起きるのを待っていたのだろう。置いておけばよかったのに。これじゃ泣き顔なんて見せられない。

 和葉がここにいるといことはもうばれたか。なんて言えばいいのだろうか。惨敗だったとでも言えばいいのか? 恥ずかしくて言えない、そう考えていると、和葉は俺が起きたことに気付いたのか、少し怒った顔になった。

「暴力とか止めてよね。すっごい心配したんだから」

 泣いている顔じゃなくてよかった。

「ごめん、勝手に手が動いてしまって、許してくれ。……それと快、さっきは殴ってしまってすまん。暴力を振るのはいけなかった」

 頭をポリポリ掻きながら言うと、快は俺から視線を少し外した。

「悪いのは俺のほうだよ。さっきは言いすぎた。俺は優紀のいいことを知っているからその分、そんなことで何をくよくよしているんだ。と言いたかったんだが、熱くなりすぎた。いきなり怒って、俺って何、むきになっていたんだろうな」

 なんだか気恥ずかしいな。

「さっきの言葉は的を射ていたんだ。だから何も言い返せなくて……悪いのは俺なんだ」

「いや俺が悪い」

「だから俺だって」

 俺たちはなんだかおかしくてそのまま二人笑いあった。友達というのはこういうことを言うんだろうなと改めて心から思った瞬間だった。和葉は呆れているのか苦笑いをしていたが。

 それにしてもさっきまで殴り合いをしていたのに、あっさりと仲直りをしたな。

なぜそんなことができるのかと言われればこう返すしかない。理屈では説明できない、と。

 なんとなくでしか分からない。

 俺ってなんかカッコイイ?

 この一言によって俺はすべてを台無しにしたな。


 それから俺たち三人でたわいもない世間話などをしていた。今の状況に目を向きたくなかったのかもしれない。

 長い間一緒にいると分かるが、そのことに多分この二人は気付いている。そしてあの先生のように気付かないふりをするのだろう。ここから先は俺個人の問題なのだから。

 快や和葉の気持ちは分かった。後は俺がどうするか。

 ただ、すでに答えは出ているんだ。元々出ていたんだ。それを見ないふりをしていただけ。見たくなかっただけ。

 あの殴りあいで否が応でも直視してしまった。もう見ないふりをするわけにはいかない。自分や周りを信じて前を向くしかない。

 前の俺はそのことを知っていたはずなのに、月日が流れて忘れていた。

「なあ、俺決めたよ」

 たったそれだけの言葉。

さすがに二人も一瞬キョトンとしたがそれもつかの間、すぐに穏やかな笑みになった。

「そうか決めたか」

「優紀くんが決めたならそれでいいよ」

 たったこれだけの言葉でこれだけ心は温かくなるんだな。

 長ったらしい言葉よりこっちの方が嬉しい。心からそう思える。

 俺の心はやっぱり単純だな。ここ最近休んで、もう無理かなと思ったのに、全回復だからな。それが俺の数少ない取りえでもあるけど。前の悲しい気分に浸っていたあの時はどこへやらだな。


 はあ眠い。今いい気分に浸っているのに眠気は神出鬼没で襲ってくる。

 でもよかった、もう少しで駅だ。よく眠ってやる。

 だが駅では、小うるさく二人が話していたせいで、眠気がどっかへ吹き飛んでしまった。なので結局、世間話を続行した。

 しかしネタが尽き、男女が好きな恋愛話になった。しきりに快が和葉を質問攻めにしていたが、和葉はこちらを一瞥し顔が赤くなって下を向いた。

 あの、そういうことをされると本気にしちゃうんで止めてください。恥ずかしいから。

 俺のリアルは充実している。だから友達が少なくたって、彼女がいなくたってリア充だ。充実なんて人それぞれなんだから。他人に決められることではない。

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