俺は間違えたのか
このまま俺たちも帰りそうだったが、誰も何も言わず時間は過ぎていった。
「修学旅行の話はとりあえず止めとくかな」
やはり先生としてこの状況はいけないと判断したのか、いつもより少しだけ声を大きくして言った。
「ちょっと待ってください、その前になぜ舞染さんがあの反応をしたのか知ってから、決めた方がいいと思います」
「だけど黒雪さん、本人にも理由を聞けない状況でどうするの」
「俺が今までのことで舞染について思ったことが一つあります。」
「それって何なのかな?」
「あいつは多分俺と似たようなもの、いや、俺よりも酷い状況にいるんだと思います。舞染のことが好きな男子はいっぱいいますが、同性の友達が、アイドルという職業柄、これから先できない可能性があると思うんです。しかもあの反応を見る限り、中学でも似たような経験をしたんだと思います」
ようやく、舞染の昨日や今日の行動の意図が分かった気がする。きっと人との距離感が掴めないのだろう。馴れ馴れしく接しようとしたり、逆にほとんど話さなかったり。自分で自分が分かっていないのかもしれない。
隣から、どうしよう、私が話さなかったりしたからあんな行動をしたんだ。と、聞こえたが、さすがに俺も言葉をかけられるほど冷静でもないので、聞こえてないふりをし、平静を装った。
「君たちはどうする。助けるか助けないか」
いきなり先生が物事の核心を突いてきた。
「助けると言ったって、どうやって助けるんですか」
「すぐ論理を並べていく君のそういうところはあまりよくないと思うよ。大事なのは、助けたいか助けたくないか、そんなことは後からいくらでも考えていったらいい」
助ける方がいいとは一概には言えない。助けることも、救われるのは一時的で後からまた酷い目に遭うかもしれない。だが、このまま放っておくのはもっといけないと思う。ただそれによってさらに悪い方向へ行ってしまったりしたらどうする。俺にはその責任がとれるのか? 絶対に無理だろう。人ひとりの人生を変えるというのはとてつもなく恐ろしいことだ。昔の俺がそうしてしまったように。
「私は助けたいと思います。困っている人がいたらなんとしてでも助けたいです」
「唯月さんはどうかな」
「わ、私も助けてあげたいです。自分に何ができるかは分からないけど、できることをやってあげたいです」
「相原君、君はどうかな。でも、二人が助けるから自分もというのは止めておいてね。君が自分で考えたことを言って。君がやらないといってもそれはそれで正しいとも思うし、特に何も言わない」
俺はどうしたいんだ。助けたいのか助けたくないのか。俺は個人的にもちろん助けたいと思う。だからといって責任は負いたくないし、あまりに大きすぎて負えない。
もし、結果がさらに悪くなり、舞染から恨まれて日々を生きていくということが。
人から恨まれ、日々を生きるのはこの上なくきつい。俺には荷が重い。
「すみません、俺には無理です」
先生は、慈しむような笑みをした。それが今の俺にとっては苦しい。
「そうか、分かったよ。人それぞれだから私はとやかく言わない。けれどたった一言だけ言っておくね。君は悪くない。……さ、みんな、今日はもう帰ってまた明日生徒会の話をしようか」
俺は、心配そうに見る和葉や黒雪にできるだけ笑って心配をさせないようにしたが、悲しそうな笑顔だったのか余計に顔を曇らせていた。
「一緒に帰らない?」
「ごめん、ちょっと今日は一人で帰りたい気分なんだ」
「大丈夫だから、何も気にしないでね」
「ああ、ありがとう」
素早く支度を終え、こっちを見てくる三人に軽く手を振って生徒会室を出た。
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