実はからっぽの学校

 いち早く冷静になったのは、俺だった。その次は意外にも黒雪だった。不思議な人は、適応能力があるんでしょうかね。そして和葉、舞染という順番で元に戻った。

「結局、私たちはどうしたらいいのでしょうか」

 おそるおそるといった感じで、和葉が聞いた。

「つまりね、この学校は詳しいことを実はまったくといっていいほど決まってないから、君たちにひとつひとつ決めていってほしいんだよね」

「先生、もしかして昨日詳しいことを言わなかったのはそのせいですか」

 さっきから一言も話していなかった、舞染が喋った。

「そうだよ。ただでさえみんな初めてのことなのに、こんなことを話したらみんなの気が動転しちゃうと思ったからね」

 黒雪は先ほどからブツブツ独り言を言っている。頭の中でワールドがきっとできているのだろう。

「行事とかって自分たちで勝手に決めていっていいんですか」

「法に触れることとか、毎日行事みたいなことがなければ大体はいいよ。それと国から補助金もがっぽり頂いているから大がかりなこともできるよ」

 ちょくちょく思うんだが原さんは、先生なのだろうか? 教育者ががっぽりという言葉を使うのは、なんだかな~と思ってしまうんだが、おかしいのは俺の方なのか?

「今は5月に入ったばかりだから、あまりこの時期には時間的にやりたくないんだけど、みんなはそれでいいよね」

 ついでにことを勝手に決めてしまう。自主性はどこへ。社会性は上下関係ですね。

「はいはい、6月に宿泊学習行きたいです」

 みなさん、とても元気に和葉さんが手を挙げましたよ。

 一年生で、旅行ですか。大変いいですね。四六時中、快と観光でもするか。

 快に私ってばぞっこんなの。

 やべえな、このままじゃオネエにならなくてもホモになってしまう。

 だって他にいないんだもん。快がいなかったら、グループを組まされたとき余りになり、友達がいない人同士ならまだしも完全に関係ができちゃってる中に入ったりでもしたら、班活動のとき、後ろでひとり歩かないといけないから。それってきついよ。

「いきなりそれは早いのではないでしょうか」

「あたしもそう思う」

 口々に否定され、和葉はあからさまにしゅんとする。

 こっち見ても何もしてあげないからね。う、上目遣いとかされてもなにもしないから。

 これが悪意も何もなくやっているのが素晴らしいと思う。

「俺は別に6月でもいいと思います。最初に大きなイベントをやった方がやる気が入ると思うので」

今の発言に他意はないから、和葉の攻撃にグッときたわけじゃない。

「どうしようかな、個人的にはやっぱり早いと思うんだけど、教師が自主性を否定するのはどうかだと思うし、どちらか折れてくれないかな?」

 俺を含めない3人が首を横に振る。そんなことより先生、あなたさっきまでさんざん自主性を関係なしにバッサリ切ってきましたよね。それはもう椿の花が落ちるように。

「こういうときは、勝負をするに限るよね。ということで先生をあの手この手で幸せにした方の通りにするということで」

 欲望ダダ漏れですね。

めんどくさいのは、黒雪より間違いなく先生だわ。

さあてどうやって喜ばせようかな、うーん。あっ、ふっこれしかないな。

「俺からいいですか」

「いいよ、どんどん喜ばせてね」

「先生って、俺には二十歳ぐらいのお姉さんにしか見えないんですよね。どうやったらそんなに若々しくいれるのか教えてくれませんか」

「そうかな、照れちゃうな。……いや思いっきりお世辞だよね」

 ちっ、ばれたか。

「嘘だってのは分かっているんだけど、すごい嬉しい。今までぶりっ子とかは言われたけどそんなことを言われたことはなかったし、うーん……。はい決めた。6月に修学旅行をやります」

俺はさすがにそんな早く決めていいのか? と首を傾げていると、唯月が嬉しそうに一方的にハイタッチを求めてきた。そのとき、舞染がただならぬ形相でいきなり立ち上がった。

「やめてください。ほんとに困ります」

 この発言によって、嬉しそうだった唯月が1回瞬きし、それから黙った。

 今日、何度目かの静寂が訪れ、それを破るものはいなかった。

 本人を除いては……。

「すみません、あたしもう帰ります」

 急いで荷物をまとめ、小走りに扉を開け去って行った舞染を俺は、ただ見ていることしかできなかった。

 それは、他の人も同じだった。

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