俺の学校は〇〇だった?

三人が俺に気づいた後の対応は三者三様だった。

まず黒雪はいきなり立って軽く会釈をしてきた。

次に腹黒アイドルはこっちを一瞥して、また雑誌を見た。

 最後に和葉はようやく話し相手が見つかって嬉しいのかこっちに駆け寄ってきた。

「よかった。気まずい雰囲気だったから助かったよ」

 人に頼られるというのは何気に嬉しいものですね。

「勘違いしているかもしれないから言っとくけど、黒雪は意外と話しやすいぞ。自分からはあまり話さないというだけで。舞染は確かに話しづらいけど」

「うん、えーっとね、それは知っていたんだ。だから黒雪さんと話していて舞染さんにも声をかけたんだけど、あまりしゃべらなくて、ただじーっと見てくるから話しづらい状況になって今に至っているんだよね」

 ああそうなのか、でも確かに見てしまうのはよく分かる。人数が少ない状況で自分が一人、除け者にされていたら、話しかけるタイミングとか窺いたくなるしな。

 しかも、アイドルという立場だ。人と上手くやらないといけない職業だからより一層そういうことには敏感なんだろう。

 だが、考えれば考えるほどよく分からない点が出てきた。

 アイドルという有名人なら人とコミュニケーションを取るのは得意なんじゃないだろうか……。これと転校してきたのは何か関係しているのだろうか。

 今、舞染に聞きたくてしょうがないが、俺はまずコミュ障だし、聞きづらいし、あまりに失礼なので諦めた。

 だからといってただ立ち尽くすのはなんなので、なんとなく決まっている自分の席に着いた。和葉も同様に横に座った。

「あの、今日は何をするのでしょうか」

 黒雪がなるべく小さい声で俺に話しかけてきた。

 うーん、それを俺に聞かれてもな、会長だけどまだ大した話を何も聞いてないからな。大変コメントに困る。

 ただ無言で返すのもあれなので、ありきたりな言葉を使わせていただこう。

「どうでしょうね、でもやっぱり具体的な仕事の役割分担とかをすると思います」

 困ったらどうでしょうねを使う。これのおかげで、たとえ、俺が間違えたとしても元々不確かなことだから責められることはないという責任を逃れたい人用の戦法だ。しかし、これには一つ欠点がある。あまり使いすぎると、こいつ適当なことしか言わねえじゃんと蔑まれることだ。ですので連続でのご使用はお控えいただきますようお願いいたします。

 この戦法のおかげで納得したような顔をしながら椅子の背もたれによしかかった。

 その後、まだ先生が来ないので和葉と世間話か何かをしようとも思ったが、自分たちだけで盛り上がるのも悪いと思い、うっすい推理小説をパラパラとめくって暇つぶしをした。

 その時間は意外と早く終わった。顧問の原先生が登場したからだ。

「やけに静かだね。これから長い付き合いになるんだからみんな仲良くやってね」

 全くもってその通りです、先生。できれば仲良くやる方法も教えてほしいけど、原恵お姉さん友達少なそうだな。それにそんなことを高校生になって聞くのもおかしな話か。

 先生が椅子に座ったのを合図に、ばらばらにあった椅子も机の近くに置かれた。

「では、さっそく始めようか」

「その前に、一ついいですか」

「何かな」

 先生が俺に早く話すよう笑顔で促してくる。

「最初に具体的な仕事内容とかを教えてほしいんですが」

「最初からそのつもりだったから心配しないでね」

「あっ、そうですか」

 言わなければよかった。早とちりしちゃって少し恥ずかしい。

「ではでは、仕事を発表します。……でもその前に、君たちには、一つ重要なことを言わなければいけません」

 そういうと、先生はこの先を話してもいいのかという問いの目を俺たちに送ってきた。

 どうせそんな重要なことでもないので普通にうなずいたが、女子たちはかなり緊張した面持ちで、うなずいていた。

 先生はそれにうなずき返し、口を大きく開けた。しかし、そこから発せられる声は、いつも通りの少し小さめの声だった。

「実は、この高校は表向きでは道立だけど、実際は国立なんだよ」

 重要なのはそうだが、驚きの方向性が分からん。

「こんなところに高校が建ったのは不思議だとみんな思ったでしょ? それは国が今の高校生の自主性、社会性などを知るために建てられたんだよ。」

 開いた口が塞がらないとは本当のことだったんだな。俺を除いた生徒会の皆さんが口をあんぐりと開けたまま話を聞いている。

 先生はこの三人に話すのをいったん諦め、一番冷静な俺の方を向いた。

「それでね、この高校には明確なルールというのも存在しないし、特に行事も決まっていないんだ。本当は生徒会のメンバーに作ってもらいたかったんだけど、去年は誰も生徒会をやらなかったから、普通の高校と同じようにルールも行事もやったんだけど、国から何のために建てたんだ。と言われてね、君に無理やりやらせることになってしまったんだ。ごめんね。ちなみに今まで言わなかったのはみんなやるとかで殺到して選挙どころじゃなくなりそうだなという自己判断です」

 今、俺が冷静でいられるのは、あまりにも話がぶっ飛んでて実感がなかったからだけど、ようやく理解できた。

 あれ、先生がため息を吐いている。なぜだ?

 何も考えられないから分かんないけど、さっきも同じ顔をしてた。

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