俺の…も変わった

生徒会室前で先生と別れ、廊下を歩きながら考えた。

この今までの日常が壊され新しい世界に踏みこんだ自分自身のことを。

 考えたところで答えなんか出てこないかもしれないが、会長という大きな役職を突然与えられたら、考えずにはいられないんだ。


 そんな考え事をしていたせいで、前から歩いてくる人物に気がつかなかった。

「相原さん、こんなところで何をしているんですか」

「ああ、黒雪さん。ちょっと鍵を返しに行こうと。黒雪さんこそどうしたんですか」

「忘れ物をしてしまったんで、教室へ取りに行っていたんです。後、私のこと黒雪でいいですよ」

 なあに、これ。そんなこと言ったの、あなたが初めてです。相原。―なんてね。

「こちらこそ呼び捨てでいいですよ」

 勢いで言っちゃったけど進みすぎかな。女子とのコミュニケーションが分からない。唯月とも中学らへんから分かんなくなってきたんだよな。

「そうですか、じゃあ相原?」

 なにこれ、展開早くない。一番早くにクリアできるルートなの。それにしても早いよね。勘違いしちゃうからホントナントカシテダレカ。

 こんな風に気を紛らわせないと危険だ。もうそれはまるで告白しようとしている男子高校生みたいになってしまう。悟りを開いてこんな煩悩どっかに置いていきたい。

「黒雪?」

 そう言うと前にいる人物の顔が一気に真っ赤になった。トマトみたい。黒雪さんって意外と天然なんですね。俺はりんごになっちゃた。

「やっぱり今はやめてくれませんか」

「そうですね」

 百歩進んで百歩下がったか。ん、いま?

「では私はこれで、さようなら」

「そうですね。ではまた明日」

 あえて遅く歩き、職員室に鍵を渡し、靴を履いた。

 外に出ると、春なのに肌寒くそして思いのほか風がヒューヒュー吹いていた。

 道民の春はこんなもんだな。こういうの嫌だよな。いつもアニメで入学式とか卒業式は桜が開花しているシーンばかり見るから、実際に卒業式とかでそんなシチュエーションで歩いてみたいのに、いつも葉すらなくて悲しくなってくる。九州の人はちょうどそのとき桜は開花しているのだろうか。

「それにしても今日は疲れたな。明日からこんな日が続くのか」

 憂鬱な気分でため息を吐いていたらまたしても肩をたたかれた。                                                        

「そんなため息を吐いていたら幸せが逃げて行くぞ」

 ため息への突っ込み二度目。

「快、お前か、びっくりさせんなよ」

 悪だくみをしようとしているのか、ただ単に面白いだけなのか分からないような笑顔でこっちを見てくる男、松田快まつだかい

 俺のただ一人の男友達、俺の中ではだが。快も思ってるはず。もし思われていなかったら本当のぼっちだ……。うん大丈夫!

 俺はなぜ、快とだけはここまで親しいのかが全くもって分からんが、親しい。

 ほんとに、なんでこんなヤンチャな奴と親しいんだろうなと思いふと空を見上げると、当たり前のことだが半月がのぼっていた。

「なあに感傷に浸ってんだよ」

「うるさいわ。ていうか快、お前今日学校で見てねえけど」

「おお、同じクラスの親友と会えなくて寂しかったか、もうお前を悲しませたりしないぜ。さあ俺と熱い抱擁を」

「バカなこといってないで、早く理由をいえ」

「つれないな。さっきまでサッカーの試合に行っていたんだよ」

 そういえば、そんなことを今日いっていたような気がする。

 しかしまあ、こんな時間までやっているのか。小学校時代で辞めといてよかったわ。

「それより優紀さ、やっぱサッカー部入んない?」

「俺が入ったところでみんなに煙たがれるのがオチだ」

「そんなこといわずに頼むよ」

 俺にはサッカーにはいい思い出より、悪い思い出のほうが多い。

 ポジションはよくボールも来るのに、ボールをとったらすぐにとられる。他にも、シュートを打ったときゴールに入ったものの、蹴る瞬間にずっこけてボールにかすり、ころころボールにキーパーも対応できなかったという黒歴史まである。以上のことから、

「俺はもうやるつもりはないから」

 という。そうしたらさすがに快もあきらめたのか、そうか、残念だな。とだけいってサッカーの話は終わった。


 俺は自転車を取りに行き、快は徒歩だったので、自転車を押しながら歩いた。

 しばらく俺たちは無言のまま歩いた。こういうとき大して親しくないとなんとか話をつなげないと、と思うんだろうが、本当に仲が良かったら気にしないよな。相手の心は分からないが、少なくとも俺はそうだ。そんなもんじゃないだろうか、友達というものは。

そして、快がこちらを向いた。なぜ笑っている。

「そういえばさ、優紀、生徒会入ったんだってな。しかも、周りは女子だらけっていうじゃないか」

「情報が早いな。本当にサッカーの試合に行ってきたのか?」

「俺には、情報屋の二つ名があるのを知らないのか」

 さすがに早すぎだろ。これじゃ預言者だよ。グレードアップしてるな。テッテケテ―。

「これでようやく、優紀もハーレム王の仲間入りだな」

 残念ながら、俺にはラッキースケベのスキルはない。

「この性格でハーレム王になれたら大したものだな」

「確かに」

 自分で自分を馬鹿にするのと、相手に馬鹿にされるのでは違うな。むきになって反抗したくなる。

「でもよ、ハーレムになれなくても優紀ついてるよな。俺たちの友達唯月に、隣クラスの黒雪は、この学校が誇る2大美女。そして、アイドルの舞染で3大美女だぞ。もう神が降臨するレベルだぞ」

 黒雪や舞染は分かるけど、唯月ってそんな風にいわれていたのか。なんか誇らしいな。

「なんでそんな3大美女が作られたんだ?」

「一部の男子が友達のいなさそうな人にも優しく接してあげていて、茶髪のポニーテールが似合っている唯月さん最高と言い出し、また一部の男子が黒い瞳の奥で何を考えているのか分からないミステリアスな感じと黒髪ロングがマッチしている黒雪さんやばいといい2大美女ができた。そして今日、これまた一部の男子がたまたま舞染を発見し、たまたまアイドルオタクだったため3大美女が生まれたということらしい」

普段生活している学校のウラにはそんな秘密が隠されていたとは思ってもいなかった。

「ちなみに、その3大勢力の比率はどれぐらいなんだ」

「一番低いのは舞染で20%ぐらい。そして唯月と黒雪が、それぞれ40%ぐらいだったはずだぞ」

「舞染に初日から20%の人が行ったのか?」

「ああそうだ。さすがアイドルだよな。まだ会ったこともないのに20%だからな」

 きっと裏の顔を知ったらみんな幻滅するんだろうな。ご愁傷様。

 それよりなんでアイドルがこんなど田舎に来てるんだ?東京とかにもっといい学校があるだろ。そしてなぜ生徒会に入った?

「あのさあ、なんでアイドルがこんな田舎に来たか知ってるか?」

「そんなこと考えもしなかったな。なんでだろうな」

 まあ、今度本人に聞けばいいよな。


 そんなこんなで電車に乗り、降りて歩き、10分くらいで家に着いた。

「じゃあ、また明日な」

「ああ」


 家に入ると、目の前に人がいた。チャイムも鳴らしていないんだが、なぜ?

「お兄ちゃん、お帰りなさい」

 声だけ聞くと、やばいアニオタは、うひょーとか言うかもしれないが、今の目の前に広がっているものを見てほしい。

 嫌な笑みを浮かべているから。

「聞いたよ。生徒会になったんだってね」

「ああそうだ。何か悪いか波留はる

 俺が言うのもあれだけど、こいつはブラコンである。

 なかなかやばいけど別に俺は嫌いじゃない。

 基本的に害は与えてこないし、慕ってくれるからだ。

 ただ、基本的だから例外はある。

そう、あれは2年前の夏のことだった。

 

 あの日は学校から帰るところで、会ったら話すぐらいには仲のいい女子とたまたま会い、軽く世間話などで談笑していたら、波留はデートでもしていると勘違いしたのか、いきなり俺たちの間に立ち、女子を見てこう言ったのだ。

「私は、相原さんとお付き合いしているのであまり関わらないで頂けますか」

 その女子はなんかごめんねと言い、颯爽に去って行った。

 もちろん俺も誤解は一応解こうと頑張ったが、信じてもらえず。あれから一度も話していない。それから今日まで同級生の唯月としか話してこなかった。(女子はね)

 やはりちょっぴり危険だったな。でも人間って大概こうだろ。確信はないので憶測だが。

 もし違ったら全人類ごめんなさい。さすがに大きな相手に喧嘩を売る船長ではないので先に謝っとく。

 情報屋の二つ名がある波留ですら、生徒会のメンバーはさすがに知らないだろ。

 情報屋が周りに二人もいるこの事実。

「お兄ちゃんはあの三人の中でいったい誰が好みなの?応援してあげるから教えて」

心の中はすべて見通されていたか……。えっ、あの波留が恋の応援、だと。

「どういう風の吹きまわしだ。お前が邪魔をするというなら分かるが、応援って頭がおかしくなってんじゃねえか」

「いや、私もよく考えたらこの年でブラコンはちょっとなあと思って、止めました」

 なんか今までこうだったらいいのになと思っていたことが起きているのに、いざそうなったらなんか悲しくなってきたな。

 ん、なんか胸のあたりが熱くなってきた。

 もしかして、これって……。

「で、誰が好きなの?」

 やべっ、このままだったら大変危険なことが起きそうだった。

「別に、誰でもない」

「うっそだー。すんごい可愛いんでしょ」

 さてさて、部屋に戻るか。妹ルートなんて変な所に行く前に。話しててもなかったと思うけどな。ギャルゲーを一回だけやったが、妹ルートだけ行かなかったから。

 これじゃあ、全妹好きな男子にブーイングをされてしまう。大した気にしないからかかってこい。この基本的な運動神経はあるけど、喧嘩と球技が苦手な俺が倒してやる。

 でも、せめて一人ずつでお願いします。

 後ろでまだ何か言っている波留を無視し、部屋に行った。


 部屋に入るとようやく安心して今日のことを考えることができた。

 しかし何度考えても今のこの状況に頭が付いていけなかった。

 朝ごはんとかおかまは抜きにしても、生徒会に入るわ、アイドルが来るわ、波留も変わるわで、もう全くわからない。

 よし、こういうときはシャワーでも浴びてくるか。嫌なものも洗えるような気分がするし。でも下には山姥がいる。

 ま、いっか。何とかなるべ。パジャマを持っていこう。


 そうして俺は部屋を出て階段を降りた。そこには……。

 誰もいなかった。妹や父や山姥も部屋に行って寝てんのかな。

 だから難なくシャワーを浴びることができた。それで得たものはな、特になかった。だって、あまりにも嫌なものが多すぎて洗えなかったんだもん。

 じゃあ考えても考えても結論が出なかった場合、人はどうするか。

 俺はアニメを見た。いわゆる現実逃避だ。

 気分でも変えなきゃやってられん。

 そういえば前に、アニメについてもっと詳しいことを調べようと思ったら、そのアニメの主人公やヒロインが馬鹿にされているのを見て憤りを感じているんだが。だってそうだろ、悪人を責めるのならいいけど、何かを守りたいとかのそういう意志を持っている人のことを馬鹿にするんだぜ。たかがアニメで何を言っているんだよと言うかもしれないが、アニメで馬鹿にするようなやつは現実でも無意識のうちに悪口を言って傷つけているんだ。人を傷つけないやつはこの世にいなくて、生きているだけで何かしら人を傷つけることはあると思う。でも、それにだって大小はある。人は価値観がそれぞれ違うから嫌いになるなとか思うわけじゃないけど、心の中で押しとどめておいてほしいと思う。それはアニメでも現実でも同じだ。ネットでそんな書き込みを見ても大半の人は嬉しくはない。それは断言する。あとな、誰か一人を馬鹿にして楽しいかもしれないけど、実は自分も周りから馬鹿にされていると感じたことはないか? 何をするにも相手の立場に立って物事を考えてほしい。変わらない人は変わらないんだろうけど。

 まあでも、こんなことを考えてる俺もあんまり褒められるようなことを今までした覚えはないけど、友達が少ないから自分みたいな弱者を助けたいとか思う気持ちは人一倍あるんだ。いじめは本当に忌み嫌う。最低な言葉だ。

ふーっ。なんか脳内で熱くなりすぎた。アニメからこんなことを思う俺は世間一般で言うアホなんだろうな……。アホで何が悪い。推理アニメでも見て冷静になろう。

 そんなこんなで気付けば11時を過ぎていて、夜ごはんも食わずに俺は寝ることにした。食事は一日に、一回とかのほうが長生きするからいいや。ポジティブでいないと今の状況に泣きそうです。

 明日はどうするべきか。会長を辞職するか。

 否、そんなことをしても一度決まったし、しっかりした理由があっても辞めれるかなんて難しいところなのに、特に理由もない俺が、辞めるといったところで先生によし、辞めていいよ。何て言われることはゼロに等しい。

 じゃあ、頑張って熱を出して熱を出すとか。いや、駄目だ。そんなことをしても時間の先延ばしでしかない。

 しょうがない、生徒会で青春を謳歌するか。これもできない気がする。男友達とか一人しかいないし、容姿は普通、性格は普通、勉強は上の方で軽度のアニオタ。そして軽いコミュ障。

 なにがハーレム王だ。全然なれる気がしねえよ。なんなくていいんだけどさ。それと総合的なスペック低! 絶対モテない気しかしない。

 伊達に中一で女子に一生独身でいつか孤独死するね。と言われた俺ではない。

 もうこれについてはノーコメントでお願いしたい。皆さんのご想像にお任せいたします。皆さんってだれだ?

 それからいくつか今の状況を打破する案を考えていたが、どれもこれもいまいちでいつの間にか寝てしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る