時の果てから君を呼ぶ

@cherrycherry

第1話 April 出会い

 桜がちょっとずつ散り始めてしまったその日、僕と彼女は出会った。


 高二の春。

「時田未来さんだ。みんな、なかよくしてやってくれ。」

担任の小川先生が手についたチョークの粉を払いながらぶっきらぼうに言った。

「時田。一言。」

「あ…えっと…よろしくお願いします。」

時田さんが髪を耳にかけ、うつむいていた顔を正面に向けた。その瞬間、僕は目を見張った。僕は絵にかいたようなガリ勉で、恥ずかしながら好きな子が出来たことは一度もなかった。それなのに…彼女を見た瞬間、時間が止まった。白い肌にほんのり桜色のほお、少し恥じらいをみせる表情にさらさらの黒髪。


 この時から、僕の恋の歯車が動き出した。


「じゃあ…時田の席は…そこ!一番窓側の端の席!!えーっと、立川の隣だ!立川、色々教えてあげろ。」

「あ、はい」

 突然のことで驚いた。ただでさえ、僕は僕に起きた異常事態への対処に困っているのに、その彼女が隣に来るなんて、僕はどうなってしまうのだろうか… そんなことを必死に考えているうちに彼女が僕の隣に来た。

「あ、あの…色々よろしくお願いします。」

時田さんの凛とした声が僕に聞こえてきた。僕は平然を装って

「お、おう」

と言って視線を外の桜に向けた。すると彼女も外の桜を眺めた。

「すっごく綺麗ね。」

時田さんがぼそっと呟いた。僕はこういうときの適切な反応について頭の中にインプットしてある様々な教科書から探し出そうとしたが、検索条件にあった結果は導き出せなかったから、

「だな。」

と無愛想に言うしかなかった。時田さんは僕の心情について察してくれたのか、

「あのさ、私、まだ学校についてよくわからないから、学校内をあんないしてもらってもいいかな?」

と言った。僕はぱっと振り向いた。

「え、えーっと、えーっと、そのー二人で?」

動揺しながら聞くと時田さんは微笑んで

「うん。」

と答えた。僕の脳内ではその時爆発が起きた。数秒後には僕の脳は非常用電源に切り替わって正常さを取り戻しつつあった。

「僕で良いの?」

僕が聞くと、彼女はこくりとうなずいた。僕はぎこちない笑みで何度も激しくうなずいた。それをみて彼女も笑った。


 放課後。

 僕は常に早く帰って勉強をしているので、僕が放課後にいるのをみんなはまるで珍獣が紛れ込んだかのような目でみた。幸い、僕には大して友達がいないので、大して冷やかされることもなく、時田さんと学校探検へ出かけた。

 僕たちはまず教室のある2階から回り、そのあとに1階、3階と回った。

 そして帰ってくると教室には誰もいず、柔らかいオレンジの光が教室を包んでいた。僕の非常用サイレンがまた脳内でなり始めた。

“今、この教室には僕と時田さんの二人っきり…”

そう思うと心臓の動悸が止まらなかった。そのとき、

「今日は本当にありがとう。」

と時田さんが言った。僕は

「いやいや」

と答えた。すると時田さんが僕に近寄った。

「あのさ、立川くん、私の友達になってほしいの。」

僕は思考回路が停止した。これは友達申請っていうやつなのか?僕には今まで友達と呼べる人はいなかった。それが、出会って一日目の人となるとは…でも僕は本当に嬉しくて、

「うん!もちろん。」

と満面の笑みで答えた。それをみて、時田さんも微笑んだ。

 

 帰りの道。僕たちは彼女が発明した“お願いごっこ“をして帰った。

「じゃあ、変顔して。」

最初の彼女からのお願いはそれだった。僕はただの真顔になった。僕は昔、ガキ大将のような子供に、真顔も変だなお前。と言われたのを思い出した。しかし時田さんは首をかしげた。

「それ、本気?」

そういって笑い出した。僕もつられて笑った。

「ほら、次だよ!」

僕は考えた。じゃあ、これだ!そうおもって、

「円周率全部いって❗」

すると、彼女は意外にも、「3.1415926535…」と続け出したので、

「もういいよ。」

と僕が降参して、時田さんはどや顔になった。

 やがて、曲がり角に突き当たると、

「あ、じゃ、私、こっちだから」

と時田さんが言った。僕は一気に夢から覚めた気分になった。

「そっか。じゃあね。」

僕は軽く手を振った。時田さんも恥ずかしげに手を小さく振った。その仕草が僕には妙に可愛くてしょうがなかった。

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