第11話:はなればなれに
「まるでカラックスの映画みたいだな」
独りごち、拾い上げたテープを机の引き出しの奥に押し込む。
走って、追いかけて、だけどすれ違って、はなればなれになってしまう。
「さて、と」
こうして改めて押し入れの前に立ってみると、なんだか墓前にいるような気がしてきた。この扉の向こうにはたくさんのビデオテープが眠っている。言ってみれば映画の墓場だ。いや、そもそも映画にとってビデオテープ自体が墓場みたいなものなのかもしれない。再生され停止され早送りされ巻き戻される。スクリーンから引き離された時点で、映画はある意味で死んでいるのかもしれない。
俺の中で、父親の姿はあの日のまま止まってしまっている。なんだか本当に父親はもうこの世にはいないような、そんな気になる。
だとしても。
俺は生きているし、生きている限り少しずつ前に進むしかないのだ。
「よし」
気合を入れ直して引き戸に手をかける。
と、雪崩のようにテープが崩れ落ちてきて。
「うわっ」
俺はビデオテープの山に呑みこまれてしまった。
「痛ってぇ……」
まったく災難だ。なにが「ラッキーアイテムはビデオテープ」だ。思いっきり角で頭打ったぞ。埋もれた半身を起こしながら、俺はため息をつく。
すると、パッケージのない裸のビデオテープが下腹部の上に転がっているのが目についた。手に取り反対側も眺めてみる。なんてことはない、昔はどこの家庭にもあった普通のビデオテープ。
なんだこれ? 親父のコレクションは一通り目を通したつもりだったが、見落としていたんだろうか。ラベルが何も貼っていないところを見ると、市販の映画ではなさそうだ。
不思議に思いながらも、俺はほこりをかぶったビデオデッキにそのテープを入れ、再生ボタンを押した。画面にビデオテープ特有のノイズが走り、やがて映像が始まった。
どうやらそれは、かつて父が撮った映画のようだった。
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