第7話:思春期の大谷さん

 駅前は夏休みを目前に控えた高校生たちで賑わっていた。普段は見かけない他校の制服姿もちらほら。もしかしたら地方から遊びに出て来ている子たちもいるのかもしれない。白いブラウスが太陽の光を反射してきらきらと輝いている。

 時計を確認すると午後二時すぎ。六時からのバイトまではまだ少し余裕がある。ちょうど、映画が一本観れるくらいの時間だ。確か今商店街通りの映画館で『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が上映されてたはずだ。それでも観に行こうかと坂を下り始めた、そのときだった。

 ポケットに入れた携帯が震えた。液晶を確認すると、どうやらメールが届いているようだった。大谷さんだ。

「えっと、なになに……」

 文章の途中に意味不明の絵文字が使われていて読みづらいことこの上ない。

 これはどうやら栞さんの影響らしいのだが、三十も歳下の小娘に影響を受けるとか素直を通り越して単純としか言いようがない。もっと言うと下心丸出しすぎて恥ずかしい。思春期かよ! あとたぶんこれ絵文字の使い方間違ってると思う。


 深い意味はまったくないんだが、日本文学を専攻しているような女子大生って誕生日に何をもらうと喜ぶんだろうか……?


 思った以上に思春期だった!

 正直そんな質問を高校生にされても困るし、そもそもくくりが広すぎるだろ! なんだよ日本文学を専攻している女子大生って! 素直に栞さんって言えよ!

 呆れながらも俺は「栞さんならこの前新しい下着が欲しいって言ってましたよ」と返す。嘘ではない。この前冗談交じりに本人がそう言ってきたのだ。きっと女性物の下着をどぎまぎしながら買いに行く男子高校生を眺めながらにやにやするつもりだったんだろう。まったく趣味が悪い。

 と、早速返信が届いた。


 下着!? なるほど下着か……。なんで栞さんの名前が急に出てきたのかはわからんが、まぁ栞さんも日本文学を専攻している女子大生の一人だからな。下着のひとつやふたつはなんとやらだ。参考にしよう。うむ。


 うわー、この人今絶対栞さんの下着姿想像したよ……。下着のひとつやふたつ想像しちゃってたよ……。

 軽く引きながら画面をスクロールすると、PS.と書かれた文字列が目に入った。


 PS.お前の今日のラッキーアイテムは「ビデオテープ」だ。今日も仕事に精を出したまえ。


「ビデオテープ、か……」

 昨日はビデオカメラで今日はビデオテープって、どれだけ偏った占いだよ。

 ともあれ深大寺にカメラを渡してすっきりしたのも事実だった。せっかくだからテープの方も片をつけるか。それで明日からさっぱり夏休み突入だ。まぁ、特に予定もないけどな。自嘲するように笑った俺は、映画館に背を向けて駅へと急いだ。

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