せいくらべ・三






 少女が一人。

 目の前に少女が一人、現れる。

 それは夢なのだろうか、それとも目覚めたままで同じ記憶ばかりが再生されているのだろうか。

 いつも、少女の行く手を遮るところから始まる。そして夜を舞台に戦いが始まるのだ。

 速度を恃みとした戦闘はいつしか場所を移し、やがて街中から郊外の河川敷に至った。

 ちょうど日の変わった時限。橋も遠く、人の目はない。だから互いに行っていた加減もほぼ除き去られた。

 無論、それでも自分は砲撃を控えざるを得なかったし、向こうも凌駕解放オーバードライブは使えない。

 人の目になど留まるはずもないほどの、超高速。少女は<竪琴ライラ>でも屈指の敏捷性を持つ自分と互角だった。

 それでも、互角だった。互角にやり合えていたはずだった。

 なのにどうして、押されていたのだろう。追い込まれていたのだろう。そもそも一進一退になることすらおかしいのだ。相手がどのような戦い方をするかを自分は一方的に承知していたのだ。

 理由ならば、本当は分かっている。

 目だ。

 あの透き通るような、赤子のように純粋なまなざしが、どうしようもなく恐ろしかったのだ。

 痛みには慣れたはずだった。戦いがあるいは死をもたらすものであることなどとうに覚悟していたはずだった。

 なのにどうして、あれほどまでに恐ろしかったのだろう。

 目なのだ。まなざしなのだ。

 視線が自分を狂わせる。何もかもがおかしくなってしまう。

 穢れなく無邪気に求めるあの視線は、なんと美しいのだろうか。












 深崎陣みさきじんはベッドから跳ね起きた。

 不規則に息が弾む。唇が震えている。身体もまた、震えている。

 シーツを固く握りしめ、顔を隠すように再び力なく倒れ込んだ。

 あの日、自分が行くと言ったとき、ステイシアは止めた。『本物』だから危険過ぎると。

 その意味をすぐに問い質すべきだった。いや、そうするまでもなく説明してくれたのだろう。自分がすぐにその場を出て行きさえしなければ。

 侮られたと思ったのがひとつ。

 そしてもうひとつは。

「ぐ……」

 胸が抉られるが如き幻痛に目を剥く。息を詰まらせて耐えること数秒、幻であるそれは痕も残さず消え失せた。

 もうひとつは、果たして何だったろうか。

 思い出せない。今の痛みとともに消えてしまったのか、あるいは最初からそんなものはなかったのか。

 その疑問すらも、雪のひとひらのように溶けて見えなくなる。

「ここは……」

 白い部屋だ。よく病室をそう評するが、そのような生易しいものではない。10畳程度の、一応は洋室になるのだろう。白い壁にあるのは白いドアだけ、床も天井も白く、ベッドがその中心に位置している。

 それなりに広いはずだが、閉じ込められたかのような圧迫感が陣を襲った。

「……ああ、そうか」

 この部屋のことは知っていた。

 <伝承神殿>の隠し階層、心を壊された<魔人>を寝かせておく部屋だ。

 壊れた<魔人>が暴れたとしても被害が出ないよう、たとえ昏睡したままだとしてもその姿が他の<魔人>の目に入ることによって士気を下げぬよう、隔離されるのである。

 無論、最初はいなくなったこと自体が意識されるだろうが、残酷なことがら記憶は薄れてしまうのだ。慣れてしまうのだ。

 ステイシアの部屋に無条件に立ち入ることができるほどではなかったとはいえ、陣は確かな実力者として神官派の中枢近くにはいた。だから決して理想を絵に描いたような組織ではないことも承知している。この階層について知ったときも驚きはしなかった。

 ベッドを下りた。薄い青の手術着にも見える衣を纏ったまま、素足のまま床を踏み、ドアへと向かう。

 開けた先も白い空間だった。三十以上の白いドアが並び、電灯もないのになぜか明るい。

 ドアの脇には名札があった。空白であることが多いものの、幾つかは名が記されている。

 出て来た部屋には『深崎陣』、隣の部屋には『神野修介』。

 誰だったろうか。どこかで聞いた名であるような気はするが。

 考えているだけの時間は、しかし与えられなかった。

 廊下の端の白い壁、継ぎ目の一つさえ見えなかった場所が音もなく左右に開き、暗闇の中から可憐な姿が現れた。

「お帰りなさい、陣さん」

 そう告げたステイシアの表情はなぜかひどく悲しげで、なのに微笑んでいることがいっそう痛々しく、だからこそ胸を締め付けるほどに心を奪う。

 何も言えずにいるうちに、小さなくちびるがもう一度囁くように動いた。

「付いて来てください。目覚めた以上、この場所にはあまり長居すべきではありません」






 果てのない夜。

 ステイシアの部屋に入るのは、陣にとっては三度目の経験だった。

 上にも左右にも視線はやらない。不意の恐怖に身を震わせてしまいかねないからだ。

 向かいのソファに姿勢良く座るステイシアをただ見つめている。

 静寂。ありもしない星の、ありもしない瞬きの音さえ聞き取れそうな気がした。

 珍しくも、ステイシアはしばらく何も言わなかった。労わるようなまなざしで、言葉を選んでいるようだった。

 やがて桜色の小さなくちびるが言葉を紡いだ。

「よく帰って来てくださいました」

「……裏返すと危険な、そんなに危険な状態だったのか」

 陣の方もどんな顔をしたものか分からずにいた。情けなくもあり、申し訳なくもあり、素直に喜ぶ気持ちもあって、そのくせ説明のつかない虚脱にも見舞われている。

「あの状態から復帰できたのは…………陣さん、あなたが初めてです。可能性そのものはありましたが、それを掴み取れたのは初めてなのです」

 続くステイシアのその言葉にも驚きはしなかった。というよりも、なぜかあまり興味が湧かなかった。

 替わりに、尋ねるべきことがあった。

「『本物』、ホンモノ……そいつは一体全体何なんだ?」

 あのときに聞いておくべきだったこと。今更であっても、まだ価値はある。

「『本物』だから危険、強い。強い…………なぜ強い?」

「まず、定義からお答えしましょう」

 ステイシアの返答に淀みはない。予想できていたのかもしれない。陣の瞳を見つめたまま、そのまなざしはどこまでも静謐で、だからこそ思いを読むことは叶わない。

 そして語り始める。

「『本物』とは、自らの望みに呑まれてしまった<魔人>です。己のために望みがあるのではなく望みのために自分がある、そんな存在です」

「……逆、ということか」

 生き物にとって、すべては自分のためにある。そうしたいから、そうしなければならないと思うから、行うのだ。たとえそれが本来望まぬことであっても、その方が無難と妥協したから行うのである。

 しかし『本物』は、行うことが大前提として確定していて、その前提を満たすように思考が流れ、自我が形成され、欲求が作り出される。

「強力である理由ですが、まず……<魔人>の身体能力は人間だったときを基準にして強化されているということはご存知ですか? 『本物』はその基準が甘くなります。たとえば十名の同性内で一番足が速い、その程度で最速クラスの評価になってしまいます。<魔人>としての上限を超えはしないのでそこで頭打ちにはなるのですが、連動してより高位の戦格クラスまで得られるようになるため、最終的な能力は跳ね上がります」

 そこでステイシアは一度言葉の流れを切り、少しだけ迷いを見せてから続けた。

「……雅年さんが言うには、基準が甘くなるのは真っ当な自我を望みの贄とした対価なのではないかと。私も同じ見解です」

「……なるほど」

 陣は小さく頷いた。漠然とした道理のようなものとしては納得できる。

 だが同時に疑問も浮かぶ。

「能力が高いだけ、ではないだろ? あれはそんなものじゃあなかった。それだけなら強いだけで怖くはない」

 あの少女の眼差しが恐ろしくてならなかった理由を知りたかった。

 果たしてステイシアはその答えも知っているようだった。

「恐ろしいとともに強い理由が、まだあります。『本物』は行動に一切の惑いがありません。情動がないわけではないんです。恐怖もしますし、愛情も抱く、そこは普通の人間です。けれど、恐慌を起こしたままでありながら冷静なときと同じ判断を瞬時に下し、身体が震えたままでありながらいつもどおりに動き、愛する相手を迷いなく殺すんです。望みのために自分がありますから、それを果たすことが何よりも優先されてしまう」

 揺れる双眸が、陣の奥深くまで覗き込んでくる。

「……見たはずです。<ダキニ>は」

「泣いて、いた……な」

 不意に思い出した。透き通るように無垢なまなざしで、容赦なく他者を破壊する連撃を行いながら、時折笑いもしながら、まるで涙だけが別の意思によるものであるかのように流れ続けていた。

 その光景はあまりにもちぐはぐで、だから陣の意識の底に封じ込まれていた。

「……哀れだ」

 ぽつりと漏れた言葉に、ステイシアは何も言わない。頷くでもなく、咎めるでもなく、ただ長い睫毛を伏せた。

 大きく息をつき、沈黙のうちに陣は『本物』の情報を頭の中でまとめ直す。

 まず単純に、身体能力が高い。

 これはいい。ただ、より強くなり易いだけだ。『本物』ではなくともそれ以上の相手はいる。

 厄介なのは二番目に告げられた方だろう。どんな精神状態にあっても、当人の本来の思考能力で導き出せる最善を、ごく当たり前の調子で、己が望み以外のすべてを平然と犠牲にして行える。

 それはつまり精神的な弱点が存在しないということを意味する。だというのに表面的には動揺しているように見えることもあるというのだ。

 狂っているには違いあるまい。しかし安易に想像されがちな狂気や強迫観念の有様からは、明らかにずれた位置にある。

 知らずに戦えば、あるいは説得しようとすれば悲惨なことになるだろう。

「……最悪だな、『本物』ってやつは」

「強いて挙げるなら、望みをうまく使って誘導することは可能です。たとえ願いに関わることであっても洞察や思考力自体はごく普通に働いていますから、そう容易くは引っかかりませんけれど……あくまでも普通に、でしかありませんので」

 そしてステイシアは、陣の最も知りたかったことを告げた。

「最後に、これは純粋に恐ろしい理由ですけれど……『本物』は、その望みを前面に出したとき、<魔人>の心を侵します。心は元来曖昧なもの、そしてすべてを含有するもの。狂気と相対しているうちに自らのうちの異常を呼び起こされ、引きずられてしまうことは一般の精神医学でもよく知られた事実です。ただでさえそうであるものが、『本物』は<魔人>を構成する力でもって他者を直接侵してしまう。結果として、相対した<魔人>は自分が自分ではない何かになってしまうことに恐怖を抱く」

「ああ……」

 なるほど、とまずはそれだけしか浮かばなかった。

「異質への恐怖と、恐怖したはずのものに成ってしまいそうな恐怖、か」

「はい。とはいえ無条件に受けてしまうわけでもありません。どの程度まで耐えられるかは人によりますが強靭な自己による抵抗は可能ですし、干渉してくる力をそのまま打ち払えるなら何の問題もありません。極端な例を挙げてしまうなら、『本物』が『本物』に侵されることはないのです」

「けれど普通の<魔人>は壊される?」

 自分のように、との言葉は口にしなかった。

 今になって思えば、美しいと感じてしまったことがもう引きずり込まれていたのだろう。そして己自身と異物が同時に存在することによって仕切りが緩み、それを起点として壊された。

 こくりとステイシアは頷いた。

「まともに触れ合ってなお無事でいられた人はほとんどいません。神官派うちでは雅年さんと、おそらくはという人も含めるなら衛さんも耐え抜いてくれるでしょう。あとは…………いなくなってしまいました」

「いなくなった……?」

 少し気になった。考えてみれば、死んだか、生きているが抜けたかだろうと分かるのだが、違和感を覚えたのである。

 もっとも、違和感の理由にもまもなく辿り着いた。

 メンバーの死も離脱も、神官派とはほぼ無縁のものだったはずなのだ。ステイシアの言うとおりにしていれば全てうまくいく、それが神官派だったはずなのだ。凄惨な話が聞こえても、そのほぼすべてが処刑人が誰を殺したというものだったはずなのだ。

 いや、今ある違和感というならば他にも色々と思い当たる。

 ステイシアの印象が少しだけ異なる。神官派にも異常が起こっているように思える。あとは、『本物』。

「ちょっと変な質問かもしれないんだが」

「はい」

「『本物』って呼び方、なんだかおかしくはないか?」

 要は狂気に冒された<魔人>である。それをなぜ『本物』と呼称するのだろうか。

「本物の狂人、ってな意味なのか?」

「半分はそれで正解、と言ってもいいのかもしれませんけれど……」

 ステイシアは小さく手を動かした。

 するとその動きに呼応するように、虚空に世界地図が浮かび上がった。淡く輝くその中で、一際光る点がある。

 位置は南米、密林のただ中。

「<魔王騎士>のことはご存知でしょうか」

「一通りは」

 <竪琴ライラ>に次いで世界第二位の規模を持つ、<魔人>騎士団。その長の称号だ。

 あらゆる能力において<魔人>の限界を極め、大アルカナの名を持つ至高のクラウンアームズのうち三つまでも有する最強<魔人>。同時に、世界初の<魔人>でもある。

 長とはいうが、実際に統括しているのは副団長であり、<魔王騎士>はただ<災>を屠るのみだともいう。

「最高位の魔神の一柱である<魔王>アズィカムーイヤーナ。その居城である虚空宮殿へ辿り着いた彼は<災>を屠る力を求めました。己の全てを対価としてでも力が欲しい、と」

 画面に一人の青年の姿が現れる。浅黒い肌の鍛え上げられた肉体と、擦り切れてなお異様な輝きを放つ双眸が印象的な男だ。

 ステイシアの声は囁くよう。憧れるようでいて、憂うようでもある。

「彼の意思を気に入った<魔王>は彼の全てを代償として存在の変換を行い、どうなるかすら分からなかった実験は一応の成功を見ました。それが初めての<魔人>の誕生です。以来、彼は<災>を屠り続けています。名も自我も、過去も未来も……すべて捨て去って、<災>を葬り去る機構システムへと成り果てたのです。最強と呼ばれるのは当たり前、全ての能力が限界を極めているのも当たり前。なぜなら……」

「…………『本物』か!」

 ぎりと奥歯を鳴らし、陣は吐き捨てるように言った。

 先ほどステイシアが語った在り様そのままだ。むしろそれを極限まで突き詰めた姿である。

 小さく頷き、ステイシアは続ける。

「<魔人>とは本来、そのような存在なのです。今でこそ<魔人>作成技術の向上によって普通の人間であった頃と同じ心を保てますが、『本物』の<魔人>とは己を望みに捧げてしまった存在のことだったのです。その名残ですね、『本物』という呼称なのは」

 少し野暮ったいとは私も思いますけれど、と呟きながらステイシアが手を外側へ振れば、現れたときと同じように世界地図が消える。

 陣は自らの動悸と、じっとりと滲む汗とを意識せずにはいられなかった。

 もしかすると、あのとき美しいと感じたのは憧憬からなのかもしれない。<魔人>として本来の<魔人>への憧れが胸を焦がしたのかもしれない。引きずられるとは、あるいはそういうことなのではなかろうかと思う。

 だが、陣は己の動揺を押さえ込んだ。まだ訊くべきことはある。

「……初めて聞いたが。どうして秘密にしてある?」

 問いながら、これは半ば答えを察していた。確認のための質問という意味合いが強い。

「『本物』はその望みを露わにするまで、ごく普通の言動を行います。裏を返せば、自分の談笑している相手がそうではないという保証はありません。もし『本物』がどのような存在であるかを知ってしまえば、果たして疑心暗鬼に陥らずに済む人はどれほどいるでしょう」

「始まるのは魔女狩り、か……」

 杞憂だなどとは言えたものではない。いかに人を超えた肉体と破壊の力を手に入れようとも、心は変わらない。荒事と痛みに慣れてしまった分、いっそより短絡的に暴力を用いてもおかしくないくらいだ。

 陣は荒い息をついた。汗も動悸も治まらない。

 自分は今、正常だろうか。自分は人として妥当な反応をしているのだろうか。普通の思考と感性というものは、この感覚でよかっただろうか。

 自分はかつて、こんな喋り方をしていただろうか。つい先ほどとすら違っている気がしてならない。

 夏の日、不意に自身の存在自体を疑ってしまうように、他人の目を借りて世界を盗み見ていると錯覚するように、惑いが心を蝕んでゆく。

「……訊きたいことは、まだあるでしょうか?」

 静かで優しい声。本当にかすかな笑みを小さなくちびるに浮かべ、落ち着かせるようにステイシアが覗き込んでくる。

 やはり、印象が少しだけ違う。

 ステイシア=エフェメラ=ミンストレルは神官派の中心だ。争いを憂い、それを解決すべくメンバーを集めて頼みごとをする。方針と方策を伝える預言者にして、守ってやらなければならない姫君とでも言うべき存在である。

 今、目の前にいる少女も、いつもの可憐なステイシアではあるのだ。ただ、どことなく知性の冷たさが肌に触れる。果たして守られる必要などあるのだろうかと思えてしまう。

「俺は、まともなのか……?」

 声はかすれていた。

 ステイシアは肯定も否定もしなかった。

「今はしばしの静養を。確たることは言えませんが……」

 薄闇がどこまでも続いて、意識を希薄にしてゆく。

 陣は底抜けに透き通った湖に沈んでゆくような浮遊感に包まれた。

「陣さん、あなたは少なくともご自分の望みとそれに関する記憶を失ってしまっているようではあります。そうでなければきっと、<ダキニ>を哀れとは言わなかったでしょう」
















 意識を失いふらりとソファに倒れこむ陣を、まるで最初からそこにいたかのようにステイシアは隣で支えた。

 そしてゆっくりと陣の身体を横たえさせると、頭をそっと膝の上に受ける。

「……思い出す必要も、ないでしょう」

 応えるものなどないと知ってステイシアは虚空に呟く。

「陣さん、あなたはお兄さんの命を奪った<ダキニ>への復讐のために<魔人>になりました。そして願いがそのままであったなら、私はあなたを止めはしなかった」

 眠れる陣の眉間には深い皺が刻まれ、唇も痙攣するように時折ひくついていた。

 過ぎるほどに傷ついてきたことを、ステイシアは知っている。それは忘れた今も陣を苦しめるのだ。

 幼子にするように、やわらかく陣の髪を撫でる。すると苦しみの色がするすると解け、不思議なほど穏やかな表情になった。

「憎悪は『本物』に対する守りとなる。願いが復讐のままであったなら、相手の手の内が分かっている以上は十中八、九、あなたが勝てる。けれど、自覚もなかったのでしょうけれど、あなたは変わってしまっていた」

 語りかけるような独白。

 ステイシアは陣の髪を撫でる左手はそのままに、右手をそっと胸元へ埋めた。

「憎しみさえもやがて飲み込む人の業……強い、弱い、勝った負けたの背比べ。それが必要なものなのだとしても、どうか」

 決して叶わぬ祈りを世界に捧げる。

 己こそが痛苦の手助けをしているのだと知ってなお、願うのだ。

「どうかこれ以上、誰も傷つかぬよう……」





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