第120話
みんなでさんざん歌い、騒いでいよいよ解散となった。店の入口で皆が名残を惜しんでたむろする中、田中さんはユリカに抱きついて泣いていた。
「いつでも遊びに来てね。試供品もたくさん取っておくからね・・・」
ユリカももらい泣きをしながらほかの店員と握手をしたり、最後のあいさつを交わしたりした。
「倉田君、ちゃんとユリカちゃんを送ってくんだよ!ヘンなことしちゃダメだよ!ガンバレ、少年!」
別れ際に田中さんはそう言って2人を見送った。駅に向かうひかり堂の店員たちと別れ、ユリカと倉田は2人だけになった。
「どうする、バイクで送っていこうか?」
それでは倉田と話ができなくなる。
「ううん、歩いて帰る。それでもいい?」
倉田はうなずいて、2人で連れ立ってパルテノン多摩方面へ歩き出した。
午後11時を回った多摩センターのペデストリアンデッキには、ほとんど人はいなかった。11月中旬の夜の冷たい空気は、本格的な冬の訪れを予感させる。デッキの両側の外灯は白く冷たい色を放っている。
2人はほとんど言葉を交わすことなく歩いた。お互い、伝えたいことがあるのに、それを表す言葉を見つけられず、かえって気持ちだけが空回りし、行き場を見失う。16歳の彼らはまだ幼く、ひとつの言葉でそれまでの関係が崩れるかもしれないことを恐れていた。
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