第118話

「あ、ここギター借りられるじゃん!ね、ユリカちゃん、ギター弾いてよ!」

 受付で田中さんは大はしゃぎして勝手にギターを借りてしまった。ユリカは安物のエレキギターを抱えて部屋に入った。割と大きめの部屋で、機材の横にはちいさなステージがしつらえてあった。

「最近のカラオケって楽器が弾けるんですね。うーんと、ああ、ここにジャックがあるんだ。」

 ユリカはシールドを差し込んで、適当にアンプをいじると、突然大音量でグワーとギターの音が流れ出した。みんなはびっくりしてユリカを見ている。

 スイマセンと言って彼女は音量を調節し、軽くコードやビブラート、チョーキングなどを試した。

「うわー、ユリカちゃん、上手!そんなにうまかったのか!もうプロになれるんじゃない!」

 田中さんは素人の無責任な感想を述べた。

「あ、大石、丁度いいのが入ってるよ。」

 倉田がニヤニヤしながら端末を操作すると、直後にあの馴染み深いメロディが流れ出した。


 ――ロロン・・・ロン・・ロン・・ロンロン・・・

 ――ロロン・・・ロン・・ロン・・ロンロン・・・


 ユリカは倉田に向かって微笑んだ。モニターには「バッテリー」の文字が浮かんでいる。ユリカはギターのボリュームを控えめにして、このアコースティックパートを弾き始めた。ひかり堂の店員たちは初めて聴くこの曲を、美しい調べで始まる知らないロックバンドの曲、くらいのつもりに思っていた。

 そして、しばらくおとなしくメロディを弾いていたユリカはここぞとばかりにボリュームを最大限に上げた。

 ドーン!ドドドーン!

 みんなは突然挿入されたノイジーな音の大きさに体をすくめた。ユリカはそのまま構わずにイントロのコードを腕を振り下ろすように演奏し、メガネを外してポケットに入れたあと、あの攻撃的なリフをスタートさせた。


 ズッズクズッズクズ ズズズ

 ズッズクズッズクズ ズズズズ


 下を向いて一心にヘッドバンギングをしながらリフを刻むユリカを、みんなは息を飲んで見守った。普段の彼女からは想像もつかないその姿は、相当なインパクトに違いなかった。

 そして、ダダッダッダッダ!というブレイクでカラオケの「バッテリー」が猛烈な勢いで走り始める。

 突然のスラッシュメタルチューンのフルスロットルに呆然としているみんなの表情を見た倉田とユリカは大笑いした。そして倉田はユリカの横でマイクを持ち、

 ――ラッシンアウディアクション、リタニジリアクション!ウェイカリップターナーウェイ!

 と、腰を落として全力で歌い始めた。

 ――おおー!倉田君、歌覚えたんだ。カッコイイ!

 ユリカは嬉しくなってリフを弾き続けた。最初は驚いていた店員たちも、手をたたいて大喜びである。スマホを出して撮影し始める者もいる。

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