第113話

 店を出て、ユリカと倉田が京王線方面へ向かおうとすると、西川は立ち止まってなにやらモジモジしている。

「あれ、お前、帰らないの?」

 倉田がいぶかしげに聞く。

「西川さんって調布だよね。一緒に帰ろうよ。」

 5時をまわっている時計を見ながらユリカも言った。

「うん、あのさ、まだ帰らないんだ・・・。」

 そう言って西川は美山の方を見た。

 美山は西川を一度見て、倉田とユリカに向き直り、なんだかずいぶんとしおらしい様子をみせた。

「あのね、西川くん、私ともう少し遊んでくの。っていうのは、その、あのね・・・実は、私たちつきあってるんだ・・・。」

「ええーっ!」

 倉田とユリカは同時に声を上げた。近くを通り過ぎた若い二人組の女性が一瞬振り返った。

「あ、そー。なんだよ、びっくりしたよ。そうか、よかったね。」

 倉田はなんだか少し寂しそうに言った。

 ユリカも突然の美山の告白に驚いたがすぐに笑顔になった。

「美山さん、いーよ。なんか、急に2人がお似合いに見えてきたよ。西川さん、美山さんいい子だもんね。」

「あ、うん・・・」

 照れくさそうに西川も笑った。

 そのまま謎解きカフェに行くという2人と別れて、倉田とユリカは京王線のホームへ向かった。

 「あーびっくりした。あいつ、何も言わないんだもん。でも多分つきあいだしてまだすぐなんだろうな。」

 「わたしだってびっくりしたよ。なんだか仲いいな、とは思ってたんだけどね。」

 駅のホームに着いて、ひとしきり彼らのことを話したら、なんとなく2人とも黙り込んでしまった。特急橋本行きは混雑しており、不思議と静かな車内で2人は無言のまま他の乗客に挟まれて立っていた。

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