第112話

「へええ、お前そんなに大変な思いしてたのか・・・あっ、それってひかり堂に来た日か!」

「ああ、そうだ!もうなんかだいぶ昔の気がするねー。あの時ホントわたし辛かったんだあ。」

「いきなりギターしょって来たからあの時はびっくりしたよ。正直、イメージのギャップがすごかったし。」

「なんだ、そんなふうに思ってたの?たしかにあの頃はさえない風采だったけどさ。」

「でも大石が入ったから、結構仕事は楽になったんだよ。それに今影響受けてメタリカ聴くようになっちゃったし。最近のお気に入りは“コールオブクトゥルー”だな。あれすごくカッコいいよな。」

「わあ、マニアックなのお気に入りだね。あの曲はね、H・Pラヴクラフトっていう人の書いた、いわゆるクトゥルー神話っていう怪奇小説のシリーズがあって、それを元にしてるの。その影響でわたしラヴクラフト全集ほとんど読んだよ。それでさ、あれってクリフのワウのベースがものすごくカッコいいんだよ。中盤、リフの合間に時々、ブワーオウ!みたいな音が入ってるでしょ。あの化け物の叫び声みたいなやつ。」

「へえ、あれベースなのか!すげえなあ。後でその本も貸してよ。なんか読みたくなった。あとオレ、最近バイク乗るときには“ヘルプレス”聴くんだ。」

「また渋いとこつくね・・・確かに最初のラーズのドッタドッドタっていうリズムはバイク乗るのにはぴったりだよね。」

 いつの間にか西川そっちのけでメタリカの話に花を咲かせる2人を美山と西川は呆気にとられて見ていた。

「あのー、オレ落ち込んでるんですけど・・・」

 西川の自己申告でようやくユリカと倉田は話を止めた。

「あ、わりい、わりい、そうだった。でも別にもう平気だろ?それよりもおい、その苺のクレープ俺にもちょっとくれよ。」

「わたしも食べていい?うわーめちゃめちゃ美味しい!ねえ、倉田くん、もう一個たのんでよ。」

 ユリカがそう言うと、美山も同じようにクレープを味見した。

「うん、確かにおいしい!私も食べたい!倉田君、おねがーい!」

「倉田君、おねがーい!」

 西川は美山と同じセリフを繰り返した。

「おねがーい!じゃねえだろ!まあ、いいや。お前が元気出たなら。今日はみんなにオレがおごるよ。そのかわり、今度なんかあったらお前金出せよな!」

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