第111話

 結果からいえば、西川は惨敗だった。数十人の観客にもかかわらず、極度の緊張状態で出てきた彼は、いつもの切れ味がなかった。鉄板の「二つの表情をひとつの顔に持つ男」に至っては、照明が薄暗く、観客からよく顔が見えない、という致命的なハンデによって完全に不発に終わった。

 ユリカは笑ってあげたかったが、周囲の雰囲気からするとあまりにわざとらしくなりそうなので、つい黙ったまま見てしまった。それは倉田も美山も同じだったようだ。


 当然結果は不合格であった。

 オーディション後、すっかり意気消沈した西川は

「もう出家する」

 などと言い出し、そのまま床屋で丸坊主にしかねない様子だったので3人はなんとかそれを思いとどまらせた。

 美山は新宿マルイアネックスの地下にあるブルックリン・パーラーにみんなを連れて行った。

「わあ、美山さん、さすがレストランの娘。こんな素敵なカフェ知ってるんだ。」

 ユリカがお洒落な店内に感心する一方、西川は相変わらず口数少なめであった。

「おい、元気出せよ。ほら、おごってやるからさ、何か食べるか?」

 倉田がそう言うと、無言でメニューを見ていた西川は

「苺のクレープカプレーゼ仕立てとカフェモカ。」

 と小さな声で言った。

「お前、おごられるからって、何気にいい値段の選んだな。まあいいよ、バイト代出たし。元気出せよ。まほら、またチャレンジすればいいだろ。何だって始めからそんなに上手くいく訳ないじゃん。ほら、40過ぎて売れる人だって沢山いるんだからさ。お前ならあと30年くらいチャンスあるじゃん。」

 倉田は彼なりに、親友をなんとか元気づけようとした。

「倉田くん、あんまり慰めになってないよ。西川さん、元気出して。わたしもバンドで何度も落ち込んだ経験があるから、その気持ちわかるよ。」

 そう言ってユリカはデスピノに入りたての頃の話をした。

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