第110話
いきなり2つの有名ライヴハウスの連続出演が決まり、デスピノの周辺は慌ただしくなっていた。ほぼ毎日軽音部室での練習があったので、ユリカはあまり文芸部室に顔を出すことができなくなった。つい目と鼻の先にある場所であるが、やはり須永の顔を見ると多少は辛いので、バンドを口実になんとなく足が遠のいてしまったのである。そしてその須永も、受験の準備のために最近はあまり出ていないらしいことは美山から聞いていた。
「大石さん、たまには文芸部にも来てよ。大沢さんがずうっとアイドルの話とかゲームの話とかしか池田君としないんだもん。横井さんは相変わらず絵を描いてるしさ。あっ、そうだこないだはギターを弾いている大石さんのイラスト描いてたよ。ひょっとしたら、あとでくれるんじゃない?でもちょっと複雑だよね。」
謎解きカフェで希望の番号の部屋が開くのを待っているとき、美山がその話をし始めた。
ちょうど倉田がトイレに行っている時だったのでユリカはそれを聞かれなくてよかったと思った。そして
「そうなんだ・・・そうだったらいいな。あのね、横井さんのことは別に大丈夫だよ。わたしあの人大好きだもの。ね、美山さん、でも、もうその話は終わりにして・・・お願い。」
と釘をさした。
美山もいつになく真面目なユリカの様子に、ただひと言、
「うん。わかった。」
とつぶやいた。
暴走電車の謎を解き、制限時間内にゲームをクリアできたので3人はハイタッチをして喜び、上機嫌で西川のオーディションへと向かった。彼らは途中謎解きの感想をあれこれ話しながら新宿の雑踏をすり抜けていく。ただそれだけでもユリカは楽しかった。友達がいるのは素晴らしい。
オーディションが行われる小さな劇場の前では西川が待っていた。
「あーやっと来た。うー緊張するう。なに?謎解きカフェ?あーいーなあ!オレも行きたかったあ。」
「いーよ。また今度行こうよ。でも今日はそれどころじゃないんでしょ。頑張ってね。」
美山はそう言って西川のお腹に軽く数発パンチを入れた。西川は大げさに後ろに吹っ飛ぶ真似をした。やけに仲がいいな、とユリカは思った。
「あ、時間だ。行かなきゃ。じゃ、また後で。」
と西川はぎこちない様子で劇場に入っていった。
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