第95話
5時20分。開演10分前。緞帳の向こう側はユリカには見えないが、かなり多くの人間が集まっている雰囲気が感じられる。様子を見に行った手伝いの生徒は
「信じられないくらい人がいます!これ絶対1000人以上いますよ。ものすごい熱気です!」
と息せき切って報告してきた。
そうなれば、ほぼ目的は達成されたも同然だ。あとは、その客たちの期待に応えるライヴを披露するだけだ。
「じゃあ、そろそろSE流そう。」
マヤの指示で照明が落とされると同時に「エクスタシー・オブ・ゴールド」のイントロが講堂に響いた。
観客たちはどよめいた。そうして早くも曲に合わせて手を叩き始めた。
去年、ユリカが初めてデスピノのライヴを見た時と同じように、観客たちは手を叩きながらオ~ア~アーア~と歌い始めた。
そしてそのメロディーの流れる中、デスピノの4人はステージ中央で肩を組み、円陣を作っていた。
「みんな、いよいよだよ。アタシたちは、ついにやった。このカーテンの向こうにはたくさんの客がいて、アタシたちを待っている。負けらんないね。最高の演奏を見せよう。オーケー?」
マヤがそう言うとソメノ、キイチ、ユリカはすかさず
「オーケー!」と返した。
「よし、じゃあ、気合入れよう。デスピノ最強!」
「最強!」
「デスピノ最強!」
「最強!」
「デスピノ最強!」
「最強!」
3回繰り返して4人は円陣を解いた。そしてそれぞれの定位置に向かった。
手拍子はやがてコールとなっていた。
「デスピノ!デスピノ!デスピノ!」
ユリカはカーテンの向こう側から聞こえるそのコールを、目をつぶって受け止めている。今までのどのライヴよりも緊張していた。胸の鼓動は経験したことのない速さで脈をうち、過呼吸でどうにかなってしまうのではないか、という心配さえ生まれた。ユリカは気持ちを落ち着かせるためにボリュームを0にしたギターでひたすらソロを弾いた。それでようやく少し平静を取り戻した。
SEがいよいよ終盤に近づき、客たちは声を限りに叫んでいる。
そして曲がおわる寸前に、緞帳がゆっくりと上がり始めた。
うわああっと一段と大きな歓声があがる。
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