第94話

「よーし、これでオッケー!バッチリだね。ユリカのワイヤレスいいねえ、アタシも買えばよかったな。さあて、あとは本番を待つだけだよ。みんな、ガンバロー!」

 マヤはバンドと、ボランティアの生徒たちに呼びかけた。みんなの間から拍手が起こった。

 ステージには緞帳どんちょうが下ろされ、ライヴ開始を待つのみである。

「ね、みんな、上の通路からさ、外の様子眺めてみようよ。」

 マヤがそう呼びかけたので4人で連れ立って狭い階段を登った。すると一番先に登ったマヤが歓声を上げた。

「うわ、すご!」

 ソメノもキイチも同様の声を上げた。そして最後に窓をのぞいたユリカもやはり思わず声を上げた。

 講堂の周りを人が埋め尽くしていた。それでいてその人々は行儀よく列に並んで開場を待っていた。もしボランティアの生徒たちが上手に列に並ばせていなければ、ちょっとしたパニックになっていたかもしれないほどの人数である。

「ウヒャー、スゴイね!ちょっと数えたって、こりゃ1000人いってるよ!やったね、みんな!」

 マヤは興奮を抑えきれない様子である。

「ホントだ!ネットの影響はデカいね・・・アタシ、なんか逆に怖くなってきたよ。」

 ソメノはこの人数を見て、一気に緊張した様子である。

「野音の時と違って、この人たち、みんなデスピノを見に来てくれたんですよね。」

 ユリカがそう言うと

「そうだね、アタシたち、相当気合入れて演奏しないと、みんなガッカリしちゃうよ。」

 とマヤは真剣な表情でうなずいた。

 そのまま4人は黙って外を見ていた。すると突然ユリカのお腹がぐぅーと鳴り、3人が一斉にこちらを見た。ユリカは耳まで真っ赤にして

「いやだ、恥ずかしい・・・実はわたし朝から何も食べてないんですよ・・・。」

 と誰に言うわけでもなく言い繕った。

「マジで?そうか、カフェが忙しかったし、そのあと行進もしたしね。誰かに頼んでパンでも買ってきてもらおうか?」

 マヤはそう言ってくれたが、ユリカは

「い、いえ、大丈夫です。逆に今から食べちゃうと、ライヴの時緊張して気持ち悪くなりそうで。」

 とその申し出を断った。

「マヤさーん、もう外は人でイッパイなんで、少し早いけど、客入れしちゃってもいいですかあ?」

 下にいたボランティアの女子生徒が両手をメガホンにして尋ねた。

「ほーい。そうだね、お願い。」

 マヤは返事をして、ユリカたちに向かって言った。

「さあ、いよいよ本番が来るよ。ステージ裏に行こうか。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る