第92話
講堂の周りは、開演1時間半前だというのに、すでに人が集まり始めていた。黒いメタルTシャツを着ているキッズが何人もいた。中にはユリカの姿を見るや
「あ、あの子ギターの子じゃん!」
と指をさす者もいて、ユリカは自分がいつの間にか有名人になっていることに気付いた。
講堂の入口前は結構な人だかりで、ユリカが現れたとたん、ほぼ全員が彼女に注目し、明らかにユリカだ、ギターの子だ、という声が聞こえてきた。
――ああっ、なんか見られてる・・・ネットってやっぱ怖いな。わたしはこの人たちをほとんど知らないのに、みんなはわたしを知っているのか・・・。
ユリカはまともに前を見ることができないでうつむきながら講堂に入ろうとすると、
「あのーこんにちは、お元気ですか。」
と突然声をかけられた。誰かと思って顔を上げると、バナナフィッシュのトランペットの少年だった。
「あっ、こんにちは!見に来てくれたんですか!」
「うん、そりゃ来るさ。デスピノあれ以来すごい人気じゃん。ネットの書き込みとかでも、本当の優勝はデスピノとか言われてるし。ちょっと悔しいけどさ、やっぱ見たくって来たよ。他のメンバーも何人か来てるんだ。今日は客としてモッシュするつもりだから。頑張ってね。」
「はい、ありがとうございます。ダイヴとか、してもいいですよ。」
ユリカはにこっと笑ってそう言った。彼らのようなバンドに認められたのは嬉しかった。気分が高まったまま、彼女は「関係者以外立ち入り禁止」と張り紙された重い扉を開けて講堂へと入った。
ステージではすでにドラムもアンプもセッティングが済み、マヤはチューニングをしているところだった。
コウタローが舞台の前でドラゴンの着ぐるみを調整し、それをキイチが手伝っている。ソメノはステージ端に座ってその様子を眺めながら足をぶらぶらさせていた。講堂内には他に、以前軽音楽部に所属していた生徒や、ライヴ準備のボランティアたち数人がいた。
「あ、ユリカ早いね。じゃもう音合わせ始めちゃおうか。」
マヤはチューニングを終えて、メサブギーのツマミを調整し始めた。
「外、もう結構人がいました。そうそう、聞いてください、バナナフィッシュの人もいたんですよ。」
ユリカはギターをソフトケースから出しながらマヤに言った。
「へえー、わざわざ来てくれたんだ、うれしいね。」
「モッシュするって言ってましたよ。わたし、ダイヴしてくださいって言いました。」
「あはは、そんなこと言ったらきっとすごい暴れるんじゃない?あー楽しみだなあ。さあて、キイチ、ソメノ、音出し始めるよ。」
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