第91話

「なんか追い出したみたいだけど、いいの?大石さん。」

「うん、別に大丈夫。さ、片付けようよ。先輩たちが来るまでに、できるだけきれいにしよう。池田君、そっちのぼって。」

 何か体を動かさないと気持ちがスッキリしなさそうだったので、ユリカは池田と一緒に暗幕を外しにかかった。すると今まで薄暗い蛍光灯で照らされていた教室が、秋の午後の、ものく柔らかい日差しでいっぱいになった。

 ――わあ、気持ちがいい・・・。

 ユリカは暗幕を手に持ったまま、じっと外を見つめた。

 ――わたし何やってたんだろ・・・。さっきはあんなつっけんどんに言って、倉田くんに悪いことしたな・・・。まったく、自分でも意味わかんない・・・。

 去年、ユリカが校舎の間から見たのと同じ斜陽が、ごつごつしていたユリカの心をやさしくゆっくりと、滑らかに溶かしていくような気がした。

 彼女はいてもたってもいられなくなって、池田にちょっと悪いねと言って、アイフォンを取り出し

“さっき、なんか冷たい言い方してごめんなさい。ちょっとライヴ前で気が立ってて・・・西川さんにもヨロシクね”

 と倉田に送信した。すぐに返信があった。

“全然気にしてないよ。マジライヴ頑張れ”

 ユリカはアイフォンを握り締め、ホッとして再び外を眺めた。西日に照らされた、紅葉にはまだ早い、やや薄緑色をした葉を抱えた大きなイチョウがたたずんでいる。


金色のちひさき鳥のかたちして・・・いちょう散るなり夕日の丘に・・・


 ユリカはそっとつぶやき、ようし、ライヴは全開で行くぞ!と気合を入れた。

 そのまま一生懸命ユリカが片付けをしていると、どやどやと須永たちが戻ってきた。ユリカの姿を認めた須永は

「あれ、そんなことしなくていいよ、大石さん。そろそろ準備に行ったほうがいいんじゃない?」

 と言って、ユリカを講堂へ急がせた。

「みんなで観に行くからね!頑張って!」

 部員全員に見送られ、ユリカは少し肌寒くなってきた空気にブレザーをはおり、ギターケースを背負って2―B教室を出た。

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