第88話

「ユリカ、お疲れ様。アンプ運びはこの子達が手伝ってくれるからカフェに戻って。コウタロー先輩もそろそろ来るみたい。まあ、4時半に講堂に来れば間に合うよ。あぁ、久しぶりにアタシのメサブギーちゃんを鳴らせる!」

 マヤはそう言って、キイチとソメノとそのほか何人かを引き連れて部室へ向かった。

 ホワイトゾンビのギターを提げて、ゴスロリ衣装を着たユリカは、突然ぽつねんとひとりになってしまった。

 ――うわあ、わたし一人でここから教室に帰るのやだな・・・少し前まであんなに楽しかったのに、急に寂しいな・・・

 と、仕方なく教室に戻ろうとすると、ちょうど倉田からメールが届いた。

“今校門にいるんだけど、どこに行けばいい?”

 ちょうどここからなら、すぐの場所だ。ユリカは

“近くにいるから迎えに行くよ。待ってて”

 と返し、校門に向かった。


 倉田は友達と2人で待っていた。ギターを抱え、奇抜な格好をして登場したユリカに倉田は面食らった。

「うわ、誰かと思った・・・いきなりすごいカッコしてんな。びっくりした。」

「いや、実はこれには色々とわけがあって・・・あ、この人が西川さん?こんにちは、大石です。」

 倉田から色々と聞かされていたので、かなりエキセントリックなイメージを西川に対してユリカは持っていたが、実際に会ってみると、倉田と同じくらいの背格好で、やや四角い顔をした、目は心持ちつり目の二重まぶたの、一見かなり大人しそうな青年であった。髪型はアフロでも五輪刈りでもなく、ごく普通のショートヘアであった。

「あ、初めまして、西川です。なんかカッコいいね、すごいね。ヨウスケがさ、いつも大石さんの話ばっかするんだけど、もっと怖い感じの子かと思ってた。」

「そんなにしてねーだろ!こいつ大げさなんだよ。そんで、どこへ行けばいい?」

 へえ、わたしの話なんかするんだ、とユリカは意外に思いつつも、なんとなく嬉しかった。

「わたし今からカフェに戻るからついてきて。コーヒー飲むでしょ。エスプレッソマシンで淹れるから本格的だよ。」

 ユリカは2人を人混みの中、2―B教室へと先導し始めた。

「ケーキも先輩の手作りで、すごおーく美味しいんだよ。」

 するとそれを聞いた男子ふたりは何やら目配せをした。何か言いたそうである。

「あれ、どうしたの?甘いものダメ?いつもデザートみたいの食べてるじゃん。」

 そう聞かれた倉田は苦笑しながら言った。

「いつもなら、ね。実はさ、さっき新宿のハンバーグ屋でメシ食ってさ、そこがライスおかわり無料でさ。」

「そんで、俺が最初のライスひと皿は肉ひと切れで食う!とかやったら、ヨウスケがじゃオレは付け合せのニンジンでひと皿食う!とか言い出して。」

 西川はライスをかっこむ動作をしてみせた。

「そしてら今度は西川がパセリでひと皿!って。じゃ俺は塩で一杯、ってパワー合戦やってたら、肉食う前にほとんど腹いっぱいになって、結局バーグを残しちゃって。その結果、2人とも、もう今食い物を見たくないという状態。だから、実はさっきの屋台前とか超キツかった。」

 倉田一人でも十分面白い話を、2人で調子よく掛け合いで演じるのでユリカはギターを抱きしめて大笑いしながら歩いた。

「うわー相変わらずバカだねー。でも2人とも面白いね。そういう話はさ、ちょうど文芸部の友達がお笑い好きだからきっと喜ぶよ。」

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