第87話
――わたしがこのままギターを弾き続けたら、みんなついてきて、どこか知らない国へ行っちゃうんじゃないかしら。
彼女がそんな愉快な想像をするほど行進は充実したものとなり、ユリカのすぐ後ろで、みんなを先導していたマヤの言葉はいつの間にかシュプレヒコールとなっていた。
「デスピノ最強!」
とマヤが拡声器で叫ぶと、後ろの集団も
『最強!』
と繰り返すのだ。
「燃えよドラゴン」
『ドラゴン!』
「メタル最高」
『最高!』
こんな具合である。しかし、最初はライヴに関することを中心に叫んでいたマヤもだんだんネタが尽きてきて、しまいには
「ソメノは冷え性」
『冷え性!』
「キイチはガリ男」
『ガリ男!』
などと、どうでもよい内容になっていた。けれどもマヤの忠実なしもべたちは、どんなセリフも正確に繰り返すことを怠らなかった。
「ユリカはメガネっ
『メガネっ娘ぉー!』
ユリカは思わず吹き出した。周りでそれを聞いていた野次馬たちも大笑いしていた。
そうして一行は高らかにスネアとエレキギターを鳴らして中央広場の一番奥にある、佐久間のいる学祭実行委員のテント前についにたどり着いた。
「佐久間ァー!カギよこせぇー!」
『カギよこせぇー!』
大挙して押し寄せたマヤたちを見て、生徒会長佐久間は何事かと目を白黒させた。
「ライヴの準備をー、するからぁー、早くー、カギ返せー!」
マヤは半ばハウリングを起こしながら、わざと拡声器を使って佐久間に話しかけた。佐久間は耳をふさいで
「分かった分かったよ。何も拡声器で言うほどのことじゃないだろうが。ほら、持っていっていいよ。」
と、素直に鍵を渡した。
そこでマヤはようやく拡声器のスイッチを切って言った。
「約束通り、今日は絶対1000人集めるからね。そしたら、この鍵はもう返さないよ。」
「なんだか、えらい自信じゃないか。聞いてるよ、また火事を起こしかけたって。もし、万が一またそんなことしたら、君ら廃部どころか、退学だよ。」
佐久間はすんなり鍵を渡したのが悔しいのか、そう言って、
「ふーんだ、火なんか使わないよ。アタシたちはもともと音楽で勝負してるんだ。今日はちゃんとそれを見届けな!」
と再び拡声器を通してしゃべり、佐久間に耳をふさがせた。
鍵を手に入れたので行進はそこで解散となった。
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