第81話

 ユリカはきっと須永の冗談を理解していたのだが、それよりも彼女はドレスアップした須永と横井の姿は一幅の絵のようであると感じていた。美には美がやはりふさわしいと、須永に対する自分の気持ちとは関係なく素直に感じた。そしてその絵に収まっているのが自分でないことはユリカの胸の奥を痛めたが、この2人の並び姿を目の当たりにした時に、やはり時折感じるどうしようもない『ズレ』を彼女は感知し、半ば諦めたような気持ちにさせられたのであった。

「おはようござい、あれっ、須永先輩、なんすかその衣装!一人だけズルくないっすか?どこで買ったんです!」

 教室に入ってくるなり大沢は須永の姿を認め、あまりにも自分のとは違う衣装にクレームをつけ始めた。

「いやいや、買ってないよ。おじいちゃんのお下がりなんだ。そんなに怒るなよ。」

「だって、俺らダサすぎでしょ、これに比べたら。あーなんだよーもう。」

 来るなり大沢はテンションが下がっている。

「まあまあ、ほら、これ貸してやるからさ。」

 そう言って須永は机に置いてあった丸い箱からシルクハットの本格的なやつを取り出して大沢にかぶせた。

「うわ、重たい・・・これってすごくないですか?」

「うん、かれこれ80年くらい前のドイツ製らしいよ。俺もよくわからないんだけど、もうかぶる機会もないから持ってけってじいちゃんにいわれてさ。さすがドイツ製、物持ちいいよねえ。」

「ねえねえ、それで昨日のマント着てみてよ。」

 横井が笑いを無理やりこらえた顔で提案する。

「あぁー?しょうがないなあ、ちょっと待ってな。」

 大沢は隣の教室に姿を消した。

「もヒーん!」

 意味不明な掛け声とともに現れた大沢の出で立ちの、重厚なシルクハットと安物のマントの組み合わせがあまりにもアンバランスで、一同は大笑いした。当の大沢も笑っていた。

「オレこれで今日一日過ごすわ。」

 意外なことに大沢はそれを気に入ったらしい。そのうちに登校してきた山賀や池田にも見るなり笑われていたが、大沢はヘコむどころか、ますます根拠のない自信を深めていた。どうやら道化に徹する意志を彼なりに固めているようだ。

 ユリカと美山も着替えることにした。

 美山は黒地の長袖ワンピースにブルーのレジメンタルストライプが入ったシルクの布が装飾された衣装で登場した。袖の部分はラッパ状になっており、襟からは派手なフリルが飛び出すようにひらひらと揺らめいていた。

 そしてわれらがユリカはシックな漆黒の半袖ワンピースをまとっていた。お腹の部分のやや大きめのリボンを中心にぎゅっと絞られたウエストから、すうっとAの字に広がるスカートは二重構造になっており、燃えるような真紅のスカートの上に、スリットが入った黒地のスカートが重ねられている。そのため、ユリカの動きにつれて時折見える緋色が見るものをハッとさせる効果をあげていた。首の部分は詰襟状になっており、その襟ぐりはやはり鮮やかな赤でパイピングが施され、首周りの絶妙なアクセントとなっていた。

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