第80話
「へえ、そんなに面白い人がいるの?会ってみたいな。」
「今日ちょうどデスピノ見に来るよ。カフェにも来るって。」
そう言ってユリカは倉田のいくつかのエピソードを美山に紹介した。
「あはは、それは確かに面白いね。本人に聞いたら、もっと面白いんだろうね。私面白い人好き。ね、絶対紹介して。」
「う、うん・・・別にいいけど・・・。」
ユリカは今まで独り占めしていたお気に入りのアイスクリームを、突然横から一口ちょうだい、と言われて渋々スプーンを差し出すような、そんな気がして、何故だか自分でもわからないままあいまいな返事をした。
『ザ・ビューティフル・ピープル』と美山によって名付けられたカフェにたどり着くと、さらに早く来ていた横井が、スカート部分にはバラが控えめに刺繍された、七分袖のえんじ色を基調としたドレスをすでに着こなしてせっせと開店の準備にいそしんでいた。
髪は同系色のベルベットのリボンでまとめられて、耳には金色の月の形をしたイヤリングが光っていた。
「うわー横井さん、アイドルみたい!きれーい。」
美山は横井の衣装に合わせたヘアアレンジに感嘆した。
ユリカも同様にため息をついた。
――この人、なんて綺麗なんだろう。わたしの周りの女の人って、不思議とみんな素敵。横井さんとひとつしか歳が違わないのに、わたしなんか、てんで子供だ・・・。
ユリカが妙な劣等感にとらわれていることなど知らずに、
「あら、2人ともおはよう。早いね。そんなこと言われると照れちゃうな。いやいや、2人だって素敵だったよ。コーヒー飲む?」
と横井は笑顔を見せる。
「やあ、諸君、おはよう。」
そう言って隣の教室から突然須永が姿を現した。
今しがた着替えたのであろう、どこから手に入れたのか、彼は昨日の大沢のマジシャンとは違い、シャーロック・ホームズばりのきちんとした黒のインバネスコートをまとっている。長身の須永が着るとまるでファッションモデルのようだ。
「うわあ、須永先輩も素敵です!どうしたんですか、それ?」
思わずユリカは声に出した。
「いやあ、ありがとう。ちょうどおじいちゃんが昔着てたヤツが家にあったの思い出してさ。これドイツ製なんだよね。ハドスン夫人、ワトスン君はもう見えたかね?」
須永はパイプを
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