第79話

 学祭当日。快晴。

 いつもより早めに初台駅に到着したユリカはギターを背負って改札を出た。今日は授業がないからリュックを背負う必要はなかったのだが、代わりに買ったばかりのワイヤレスシステムやエフェクターを入れたショルダーバッグを提げていたので歩くのに難儀した。帰りは文芸部室にでも、とりあえず楽器か、このショルダーを置いていこう、と固く決心していると後ろから

「おはよ!」

 と美山に声をかけられた。

「なんか重そうだね、持ったげようか?」

「ううん、大丈夫。ありがと。早いね、美山さん。」

「えへへ、やっぱお祭りだと、早く来たくなっちゃうよね。」

 美山の言うように、いつもよりも早めに登校する生徒は多く、ユリカたちの他に、何人もの生徒が学校へ向かって足早に歩いていた。

「大石さん、今日1000人集まるといいね。めどは立ってるの?」

「うん、だいぶネットの反応が良くて、ツイッターフォロワー一万八千人越えだって。すごいよね。でも実際に始まってみないと何とも言えないけど・・・。あー野音のときよりも緊張するかも。でも、昼間は文芸部で頑張らなきゃ。」

「昨日の大石さんの衣装、よく似合ってたよ。メタルとゴスロリってなんか近いからなのかな?」

 「うーん、気持ちがなんとなく表れるのかな・・・?」

 ユリカはいい加減な返事をした。実際のところ、ユリカは文芸部のカフェよりも今日のライヴのことで頭がいっぱいだった。しかし今更あれこれ考えても仕方がないので、なるようにしかならない、と思うのだがすぐにまた不安が頭をもたげてくる。ここ数日はその繰り返しだ。

 そんなことを知らない美山はのんきに話す。

「前夜祭のお笑いライブ、結構面白くなかった?」

 昨日の前夜祭では文芸部のみんなと一緒に野外ステージで行われた学内有志によるイベントを見学した。吹奏楽部の演奏や(再びキイチが出演していた)、女装コンテストなどが行われて、いやがおうにも学内のお祭り気分は高められた。そしてその最後に素人お笑いライブが行われたのだった。見かけによらずお笑い好きの美山は、高校生の素人のネタでもかなり満足していたようだった。

「うーん、そうお?」

 ユリカの鈍い反応を美山は意外に感じ、質問した。

「あれ、大石さんて、結構辛口なんだね。じゃ誰が面白いの?」

「別に誰が面白いってわけじゃないんだけど・・・今バイトで一緒の、中学の同級生だった男の子がやたら面白いんで、それと比べるとなあ、って思っただけ。」

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