第77話

 教室の外からは、屋台を組み立てているのであろう、とかとんとん、と金づちの音や、ぎいぎいというノコギリの音などが時折響いてくる。勝手気ままに流れる音楽や、生徒たちの笑い声もどこからか聞こえてくる。ここ四五日ほどは、学園全体がお祭りムードに包まれ、生徒はみな浮かれた様子で毎日を過ごしていた。

「なんか、わくわくするね、イベントの前日って。高校生になって、少し大人気分。」

 ユリカがそう言うと、美山は答えた。

「そうよねー、本番よりも、今の方が楽しかったりして。だって、始まったらもう終わりを目指すだけじゃない?いつまでも今日が続けばいいのにね。」

「いつまでも学祭前日が終わらない昔のアニメがあったな・・・なんだっけ?」

 大沢が突然そんなことを言いだしたが、5人の中で誰もそれを知らなかった。

「それにしても横井さん、ラテアートすごく上手ですね。」

 美山はすでに飲んでしまったハートを思い出して言った。

「うん、なんか色々試してみたら面白くて、一時期ハマってたんだ。明日は私フル稼働かな?そうだ、ね、これ食べ終わったらさ、衣装みんなで着てみようよ。」

 横井はタルトタタンの最後のひと切れを平らげてユリカと美山に言った。

「おっ、いよいよコスプレ開始!」

 大沢が妙に嬉しそうにはやし立てた。

「お前浮かれすぎ。でもさ、お前も何か用意したんだろ、ゴスロリ的なやつ?」

 山賀が二つ目のタルトタタンに手を出しながら聞いた。

「そうなんすよ、おとといハンズのパーティーグッズコーナーで池田君と買ってきたんだ。見ます?」

 大沢がいかにも見てほしそうなのでユリカは

「見せてください、どんなのですか?」

 とすかさず言った。

 大沢は返事もそこそこにカバンの置いてある所まで行き、何やらガサゴソやっていたが、やがて東急ハンズの袋を取り出して、隣の空いている2―A教室へ消えた。

「あいつどしたの?」

 山賀が不思議そうに見ていたが、察しのいい横井は

「きっと、向こうで着替えて、ジャーン、とか言って出てくるんですよ。」

 と教えてやった。

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