第76話

「ああ、これ、ウチにあるやつと似てる。デロンギのでしょ。多分わかるよ。」

 ユリカは内心、自宅にエスプレッソマシンがあるなんて、すごいな、やっぱり横井さんもお嬢様なんだろな・・・。と考えても詮無せんないことを思った。

 こういう時に、ユリカはふと育ってきた環境の違いに気付くのだ。アメリカのドラマみたいな露骨なイジメや階級制はないが、好むと好まざるとにかかわらず、渋谷霊徳学園では自然とそういう社会の縮図が現れることがある。これはユリカが育った団地にある中学校ではまず考えられないことだった。だからといって、そういういわゆる上流の家庭の生徒が鼻持ちならないかというと、そうではなかった。むしろ彼らは一様に鷹揚で、独特の余裕があるのだ。それは、マヤ、ソメノ、キイチ、横井、川野、美山、そして須永からも感じられた。普段は何の意識もせずに接してはいるが、こういうちょっとした出来事の切れ端がユリカの普段はあまり表には出てこない自尊心に刺さり、しばらくはヒリヒリとした、薄い痛みのような感覚が続くのだった。

 もちろん、ユリカはそんな様子はおくびにも出さない。彼女には彼らの育ちに対抗するだけの知性があり、それが傷口をすぐにふさいでくれたからだ。

「水はもう温めてあるのね?カフェポッドがあるのかな?うん、それそれ。」

 横井は手際よく作業を進めていく。そのうちにぷしゅーという音と共にコーヒーがカップに注がれ、一気に教室中がかぐわしさに包まれた。

「わあ、いい匂い」

 美山は自分が持ち込んだ機械に感心している。

 横井は次にマシンの横についているノズルを操作し、そこからシュワシュワと出てくる蒸気でカップを温め、その後ミルクを温め始めた。しばらくして、先ほど注いだコーヒーにミルクを入れ器用にカップを扱い、そのままミルクをハートの形に整えカプチーノを完成させた。

「はい出来上がり。みんなの分もこれから淹れるね。」

 本格的なマシンから抽出されるコーヒーは格別に美味かった。横井が試しに作ってきたというタルトタタンも非常によくできており、カプチーノとの相性は抜群だった。

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