第72話

 マヤにまともに平手打ちを食らったコウタローは床にヘタりこんで呆然としていた。

 3人に止められたマヤは力なくイスに再び座り込んだ。

 皆それ以上なにも言えなかった。

ふと気づくとモニターの中では表彰式が行われていた。

「優勝、バナナフィッシュ!」

 観客席のどよめきがそのまま控え室まで伝わってきた。

 「本当なら、アタシたちだったかもしれないね・・・。」

 力なくソメノはつぶやいた。そして床に座ったままうなだれているコウタローに言った。

「コウタロー先輩、なんで黙ってたの?」

「だって・・・言ったら止めたろ。どうしても沢山の人に見せたかったんだ。絶対に上手くいくと思ったんだけど・・・。」

「アンタ本当に火が好きね。大体、きちんと試してみたの?」

 半ば呆れつつソメノは聞いた。

「一応、一回試してみて大丈夫だったんだ。これなら絶対ウケると思ったんだけど・・・申し訳ない。」

「なにそれ、もっと何回もテストしておいてよ。まだまだシロウトなんでしょ。もうあとの祭りだけどさ。」

 ソメノの声には絶望的な響きが漂っていた。


 突然、キイチのスマホに着信があった。

「はい・・・ああ、ユキナ・・・うん、まあ大丈夫。俺はね。優勝バナナでしょ。ここからでもわかるよ。しょうがないんじゃない?え、何?ツイッター?誰の?大谷さんの。ふうん、うんうん。わかった、見てみる。また後でね。」

 通話を切ったキイチはそのままスマホを操作し始めた。

「うわ、なにこれ」

 驚いた様子のキイチはそのまま画面をみんなに見せた。

「これ、大谷さんのツイッターなんだけど、モロさっきの様子がのってる。」

 なるほどその画面に出てきた写真には“#野音でドラゴン炎上”というタイトルが付けられていた。うつむいてギターを一心に弾いているユリカの後ろでコウタローのドラゴンが見事に頭から炎を上げている。そしてフォロワーが20万人近くいる大谷のツイートは瞬く間に広がり、“ドラゴン炎上”はちょっとしたお祭り状態になっていた。そしてさらに、野音にいた人々による同じようなツイートがそこかしこで見受けられた。

 ユリカは自分の顔がはっきり写っていなかったのにほっとした。と同時に、ある考えが浮かんだ。

「マヤさん、ひょっとしたら、これってチャンスですよ。」

「え・・・?」

 まだ潤んでいる瞳をマヤはユリカに向けた。

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