第54話

「だいぶ原稿も出揃でそろったから、あとは割付わりつけとか、その他の編集作業に取り掛かることになるね。これが大変なんだよなあ。大沢を中心に2年生が、といってもあと横井さんしかいないけどさ、頑張ってね。でもまあなんとか9月の末までには出来上がるでしょ。」

 そう言って一息ついた須永はすぐに思い出したように

「あ!そうだ!今年のカフェのテーマ、何にする?」

 と皆に問いかけた。

 ユリカと美山は顔を見合わせた。テーマってなんだろう。

「そっか、1年生の3人はまだよく知らないんだ。学祭で文芸部は部誌を売るためにカフェを開くんだよ。部誌と抱き合せのセットメニューにして売るんだよ。」

 山賀が横から説明した。それを受けて横井も教えてくれた。

「コーヒーか紅茶にケーキをつけて、さらに部誌をセットにして500円。これなら、結構売れるわけ。正直、部誌だけだとそんなに買ってくれないから、半ば強制的に売るのね。もうこれをずうっと毎年続けてるんだけど、いったい誰が考えたのかしらね。天才。」

 「ケーキはさ、去年は横井が手作りして結構評判良かったんだよね。」

 大沢が口をはさむ。ユリカは感心した。

「わあ、横井さん、ケーキ作れるんですか?」

 「うん。私お菓子作りが好きなの。今度何か作ってこようか?」

 「ホントですか!楽しみだなあ。」

 お菓子の話で女子が盛り上がり始めたので須永は話を戻す。

 「えーと、さっきのテーマの話なんだけど・・・」

 「あっ、そうだった、ごめんなさい。去年はイマイチだったのよねえ。あんまりお客さんも来なくて、部誌が結構売れ残ったよね。」

 横井はそう言って大沢を横目で見た。

 「なんだよ、イマイチとか言うなよ。あれはあれでオレ良かったと思うんだけど・・・」

 大沢は弁解がましく言った。

 「去年のテーマって何ですか。教えてくださいよ、大沢さん。」

 そう聞かれた大沢は、美山がこんなに親しげな様子で話しかけてくることは一学期にはついぞなかったのでなんだかとぼけたような顔になっていた。

 「大沢がさ、どうしてもって言うから『勇者カフェ』にしたんだよ。そうしたら、こいつ張り切ってダイソーでいろいろ買ってきて自分で勇者の服を作ってコスプレしてんの。勇者がウェイターって、訳わかんないよ。ほら、これ見て。」

 山賀はスマホに呼び出した大沢の勇者姿をユリカたちに見せた。グリーンを基調とした衣装は、勇者というよりは間の抜けたピーターパンのようだった。想像よりはコスチュームはよくできていたが、お世辞にも大沢に似合っているとはユリカには思えなかった。そんなユリカの思いを知る由もなく、

 「この剣とか盾とかもダンボールで自分で作ったんだ。」

 と大沢は池田に向かって得意満面で説明している。

 「コスプレして自己満足してたの大沢くんだけでしょ。私普通に制服でウェイトレスやったし。ねえ、そんなことより、今年のテーマはどうすんのよ。」

 横井がもどかしそうな様子で言う。

 「あれじゃない、メイドカフェでいいんじゃない?美山さんにコスプレしてもらって。」

 大沢が無責任にそう発言するとすかさず美山は以前の調子で

 「あれはメイドじゃありません。何度も言うように、ゴシックアンドロリータです!」

 とぴしゃりと言い放った。

 先程とは打って変わった様子の美山に大沢はスイマセンと言って黙ってしまった。

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