第51話

「あれ、どうしたの美山さん?」

 ユリカは不審に思って尋ねた。美山はこちらを見つめて何かを言いたげだが、迷っている様子でもある。

「あのね、大石さん、ちょっと聞いてもいいかな。お願いだから正直に答えて欲しいんだけど。」

「な、何を?」

「本当のこと言ってね。」

 美山はやけに真剣である。

「う、うん。わかった。」

 ユリカは何を聞かれるのかわからないままそう言った。

「大石さんってさ・・・その・・須永先輩のこと・・・好きでしょ。」

 そう言われた途端にユリカはあっという間に頭にかあっと血が昇るのをを感じた。

「えっ!ええっと、なんで・・いや・・・えー」

 いきなり図星をさされて言葉が見つからなくなってしまったユリカであった。

「やっぱりね。あたりでしょ。わかるよ。」

「・・・うん・・・好き。」

 ユリカは観念して白状した。まさに『色に出でにけり』である。

「そうじゃないかと思ってたんだ。須永先輩カッコイイしね。しかも大石さんと趣味ぴったりだし、まあ、わかるよ。大丈夫よ、誰にも言わないから。」

 そう言われて顔を真っ赤にしたユリカはこくんとうなずいた。その様子を見た美山は微笑んで続けた。

「私、大石さんを応援するから。うまくいくといいね。」

「あ、ありがとう・・・でもわたし、今のままで十分なんだけどな・・・」

 恋に恋するユリカは、単純にそう考えていた。現状維持が一番。

「でもさ、わざわざバイト先まで来てそんな素敵なお土産くれるんだからさ、けっこう脈あるんじゃない?」

「そ、そうかな・・・」

 そう言われるとユリカは嬉しくなった。

「大石さんって、本当に純粋よね。さ、部室行こ。」

「うん。」

 再び2人は連れ立って歩き出した。それにしても、美山に分かってしまったのなら、他の部員にだって知られかねない。努めて平静を保とうと決心した。しかし、部室が近づくにつれて心拍数は上がる。美山が何かを話しているが、ユリカはうわの空である。

 ――他のみんなにこのキーホルダーのことを聞かれたら、どうしよう。正直に先輩がくれたって言おうかしら。でもわたしだけもらったなんて不自然だし・・・先輩はなんて言うだろう。黙ってた方がいいのかな。

 そうしてついに部室にたどりついた。人の気配がする。ドキドキしながらユリカはドアを開けた。

「こんにちは」

 そう言って部室に入ったユリカの視界に飛び込んできたのは、アンペルマンをもてあそんでいる大沢の姿だった。

「やー、久しぶり。あれっ、誰かと思ったら美山さん?全然印象変わっちゃったね。ん?これ?これさっき須永さんがくれたんだよ。みんなにってさ。」

 そう言って大沢は指にキーホルダーをかけてくるくると回した。

 横井も山賀も池田もいた。そして3人ともアンペルマンを手にしていた。ユリカは呆然とした。

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