第35話

 2部の幕が上がると、今度はうって変わって全員がアロハシャツ着用で、指揮者も生徒である。ドラムセットはあるが、そこにキイチの姿はない。出番はまだらしい。第2部のオープニングは「吹奏楽のための第二組曲」であった。ラテンのノリの、聴いていてウキウキするような曲調である。組曲であるので、様々なテンポの曲が配されており、飽きさせない。

 十数分あるこの組曲を楽団が一気に演奏し終えると、舞台袖からアロハを着たキイチが取り澄ました様子でドラムセットに収まった。『コパカバーナ』を叩くのだ。

 指揮者が合図を送ると同時にドラムのキイチとコンガ、ボンゴ、ティンバレス、カウベルといったパーカッションパートのメンバーが軽快なサンバ調のリズムを叩き出す。さすがに上手い。なんだかんだ言っていたが、キイチはメタルだけではなく、こういったリズムも器用にこなすことができる技量を持っていた。リズム隊に引き続きフルート全員が立ち上がり、鳥のさえずりのような前奏を奏でた。ステップを踏み、皆楽しそうに吹いている。

 このバリー・マニロウの名曲はイントロだけで万人を惹きつける魅力を持っている。主旋律に入ると今度はユキナが一人で立ち上がり、トロンボーンのソロを流れるように吹き始めた。素人が聴いても唸るような演奏だ。心なしかキイチは音量を下げたようである。会場に響き渡るソロを終え、頭を下げたユキナに観客は惜しみない拍手を送った。

 そのまま曲は進み、中盤でキイチのドラムソロとなった。ここは自由に任されているのか、キイチはかなり派手なパラディドルやフィルインを叩き込み、観客の度肝を抜くと同時に大いに会場を沸かせた。そしてソロを終えたキイチはそのままリズムをキープし続ける。

 指揮をしていた生徒が観客に向かって拍手をアピールする。つきあいのいい人々は、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、と両手を叩き始めた。ユリカも素直に叩いた。ソメノとマヤも最初のうちは叩いていたが、疲れたのか次第におざなりな様子になっていた。

 その拍手に合わせ再び曲が始まると、舞台両袖からカラフルな羽飾りやラメ入りのジャケットなどで着飾った生徒たちが20人ほど現れ、リズムに合わせてダンスを始めた。演奏に比べ、お世辞にも上手いとは言えない動きを見せる彼らは満面の笑みである。ユリカはその中に知った顔を見つけて驚いた。

  ――あ、ウチのクラスの中村さんだ!そういえば彼女吹奏楽部だった。中村さん、オーディション落ちたのか・・・。それでこれをやっているの?中村さん、笑っているけど、ホントはクラリネット吹きたかったんだろうな。楽器を吹けずにダンスをやっているってどうなんだろう。やりたいことがあって、すぐそばにあるのに、手が届かないなんて。同じ学年の子は楽器を吹いているのに。わたしの勝手な思い込みかもしれないけれど、きっと心の中ではモヤモヤしているに決まってる。わたしにあれができるだろうか?きっと無理だ。それに、見ているほうも何か辛い・・・。

 コパカバーナにあわせて手を叩きながらユリカはそんなふうに思わずにはいられなかった。

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