第34話

 「マヤさん、わたしたち、この人数を集めなきゃならないんですよね・・・百人の部員がいて、集まるのがこの人数だとすると・・・」

 そう言われたマヤも、ユリカの言わんとしていることは解っていた。

 「こう見ると千人って結構いるよね。でも、やるしかない。大丈夫、ユリカが入ってデスピノ最強だから。」

 「そうだよ、マヤの言うとおり。4人で頑張ろう。やれるよ。」

 ソメノは力強くうなずいた。ユリカも同時にうなずいた。

 ――わたしは幸せだ。存在の理由を感じられる。居場所がある。そして、その居場所はわたしが自分で見つけたんだ。その居場所を作ってくれたマヤさん、ソメノさん、キイチさんの役に立ちたい。

 ユリカが人知れず決意を新たにしていると、開演のブザーが鳴り響き、ホールは暗転した。緞帳があがると、舞台いっぱいに広がった吹奏楽部員たちは緊張した面持ちで演奏開始の時を静かに待ち構えていた。6人いるトロンボーン奏者の中には、ユキナの姿もあった。ユリカは薄暗い中、最初の曲名を確かめた。“マーチ「プロヴァンスの風」”とあった。再び舞台に目を遣ると、見ているユリカにも部員たちの緊張が伝わってくる。

 満場の拍手の中、白いタキシードを着た顧問の音楽教師が舞台左袖から現れ、観客に向かって深く頭を下げた。そしておもむろに指揮台に向かい、指揮棒を上げると同時に楽団の全員が楽器を構えた。

 指揮棒が振り下ろされた瞬間、70人が一体となった音の奔流が観客を圧倒した。攻撃的ともいえる派手なメインのメロディーにトロンボーンのブワーというグリッサンドと、シロフォンの硬質な音が鳴り響いたあとすぐに木管楽器が勇壮な音程をたどる。スカン!というリムショットがマーチにアクセントを与え、流れるような音のラインに絶妙なスパイスとなる。

 中間部のテンポが落ちたところでピッコロがソロを奏でたあと、再び曲は金管楽器のファンファーレで勢いを取り戻し、クライマックスに向かっていく。最後はユキナたちの吹くトロンボーンの対旋律が楽曲を滑らかに引っ張り、一気に最終小節までなだれ込む。全力で演奏を導いた指揮者は髪を振り乱し、すべての演奏を閉じた。

 すぐに観客は割れんばかりの拍手で演奏に応えた。ユリカも感動して、痛くなるほど手を叩いた。さすがは名門吹奏楽部の演奏である。おそらく部員たちはこの日のために相当な練習を積んできたはずだ。

 ユリカは文芸部の部室にいるとき、トランペットパートがこの曲を練習していたのを耳にしていた。それはもう何度も何度も、しつこいくらい同じ部分を練習していたものだった。手に持つ楽器やジャンルはまるで違うけれども、音楽に対する情熱はユリカも同じである。だからこそ、余計にユリカは感動していた。横を見ると、ソメノとマヤも同じ思いなのか、ユリカに向かって微笑んだ。

 そのまま引き続きレベルの高い演奏で3曲が演奏され、第1部は幕をおろした。3人はトイレに行くためにホールの外へ出た。

 「いやーすごかったね。上手だね、ウチの吹奏楽部。なんかアタシ感動したよ。」

 ソメノは興奮した様子で言った。

 「わたしもです。初めてこういうところで吹奏楽の演奏を聴きましたけど、ホントに迫力あるんですね。」

 ユリカも高揚した様子で答える。

 「コンクールに出ると、大体金賞を取るからね。おととしは全国に出場してたし。ここに入るためにウチの学校受ける生徒もいるんだって。なんかユリカみたい。って、ちがうか?でもそんなえらい集団にキイチが入っていいのかねー。出場できない部員って何やってんだろうね。席で見てるだけなのかな。」

 マヤは先ほどユリカが抱いていた疑問を口に出した。その答えは次の第2部で明らかになった。

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