第23話
「いいよ、いいよ。さすが大石さん、文芸部員の鑑だよ。さあ、これで全員揃ったね。じゃそろそろ大仏さまに会いに行こう。」
須永は別に気にするふうでもなく皆を先導した。
時刻はすでに4時をまわっているが、5月の日差しはまだ余力を残している。鎌倉の大仏がある高徳院までは徒歩で行ける距離であるので、彼らは再び国道311号線を歩き始めた。相変わらず人は多く、高徳院が近づくにつれ歩道は時折渋滞する。
そして予想通り、大仏様の前は異常な混雑であった。外国人の姿がかなり目立つ。はるばる海外から来てこの混雑じゃあすこしかわいそう・・・とユリカは思った。
「
初めて見るこの大仏は、中学の修学旅行で見た東大寺のそれに比べればやや小さく、顔もうつむき加減ではあるが、ユリカから見てもそのお顔立ちは凛々しく見えた。
「そうだね。晶子がそう詠むのもわかるね。」
須永は打てば響くようにユリカの言葉に応じる。ユリカは嬉しくなる。
胎内巡りには異常な行列が出来ていたので断念し、しばらくは人混みの中、大仏様を手のひらに載せるように写真を撮ったり、大わらじの前でみんなでおどけたりしていたが、一通り見学してしまうと高校生の彼らはすぐに飽きてしまった。夕刻も迫ってきたので、ここで解散ということになった。
須永は成城学園前に自宅があるので、帰りはユリカと2人で小田急線に乗って帰ることになった。他の部員たちとは高徳院前のバス停でお別れである。
「須永さん、ちゃんとユリカちゃんを送り届けなきゃダメだよ。」
横井は須永の前に立って母親のように言い聞かせた。
「うん、そうだね。」
とどこか他人事のような須永にユリカは少し物足りなさを感じた。先ほど2人で帰るということになった時からユリカはそわそわしているというのに。
「あーオレもユリカちゃんと帰ろっかなー」
大沢が冗談交じりに言うと
「じゃあさ、大沢も一緒に帰ろうよ。」
と須永は半ば本気で言い出した。
ユリカはえっ、と一瞬思ったが
「うそうそ。俺んち品川ですよ!」
と笑って打ち消したので、ユリカは大沢に対して多少の後ろめたさを感じつつ、ほっとした。
「大石さん、ちゃんと私のブログチェックしておいてね。見ないと殺すよ。」
美山はバスに乗る直前にユリカの耳元でそうささやき、片眼でニヤリと笑った。どうやら彼女なりのジョークのようだ。ユリカは引きつった笑いしか返せなかった。
みんながバスの中から須永とユリカに手を降っていた。バスは力強いエンジン音を残して、彼らを鎌倉駅まで運んでいった。そうして須永と2人だけになったユリカは自然と鼓動が高まるのを感じていた。
「まだ江ノ電は混んでるみたいだね。」
須永はツイッターを検索してそう言った。いつの間にか6時近くになった鎌倉はだいぶ日が傾いている。
「待ち時間がもったいないなあ。せっかくだから由比ガ浜まで行くかい?」
思いもよらぬ須永の提案にユリカは心臓が止まるかと思ったが、やっとのことで
「は、はい・・・行きます。行きたいです。」
とふるえ声を悟られないように返事をした。
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