夏休み〜オタクとリア充の狭間で揺れてます。

それはヤバイ。

 夏休みって、いくら大量に課題が出ていてもついダラダラしてしまう。なんでだろう。

 私はベッドに仰向けになって目を閉じた。カーテンの隙間からは朝の日差しが柔らかく差し込んで来ているが、時期に刺すような日差しになるだろう。

 包丁がまな板に当たる、リズムの良い音が聞こえてくる。確か、今日は咲っぺが食事当番だ。

「心優、そろそろ起きろ〜」

 扉がノックされる音と共に歩の声が聞こえてきた。

「起きてまーす」

 気の無い返事をすると、嘘だ、と呟くのが聞こえたが、そこは触れないでおこう。

「今行くから」

「おう」

 パタパタと足音が遠くなったので、私はベッドから降りていつものパーカーを羽織る。

 下へ降りると、快斗とまっさんが朝っぱらからテレビの前でゲームをしていた。

「おはよう心優。聞いてよ。快斗ったらメチャクチャ弱いんだよ、」

「まっさんが強すぎなんだよっ! 一体何者⁉︎」

「まっさん以外の何者でもないさ!」

 凄く清々しい感じで言ってるけど、端から見たらただの怪しいオッさんだよ、まっさん。

「快斗、今日は部活あるの? 私らはもう少しで行くんだけど」

 咲っぺは皿に並べられた10切れ程ある卵焼きを弁当に詰めながら聞いた。

「今日は無い。先輩が、今日1日で課題終わらせろってさ。」

「は⁉︎ あの量を1日でって、かなりキツイぞ⁉︎」

「大丈夫。歩、あれはきっと冗談だ」

 冗談じゃなかったらどうするの⁉︎ 望先輩なら本気にしかねない。快斗、のん気過ぎだろ!

 と、弁当の中身を詰めるのを手伝いながら1人で突っ込む。

「そんなに多いんだ〜」

 まっさんはロン毛を丁髷ちょんまげのようにして束ねながらのんびりと言った。

 のんびりとしていてもやっぱり怪しい。

「多いってもんじゃ無い! 先生達は俺らを殺しにかかるつもりだっ‼︎」

 歩が追い込まれてる。いくらなんでも被害妄想が酷すぎる。

「いいよね、まっさんは。課題とか無いじゃん。私も早くフリーになりたいよ〜」

「咲っぺ、それは間違っているよ? 俺だって、課題は大量にある。それが勉強って訳じゃないだけで、大して変わらないよ」

「……。まっさんって一体何のし……」

「あー。お腹減ったなあー。咲っぺまだあー?」

 ……ごとしてるんだって聞こうと思ったのに。声を被せられてしまった。そんなにヤバイ仕事なの⁉︎ 本格的に怪しいオッさんになってきたな。というか、関わって平気なのかな。

 少し心配に……。


「心優、今日なんか予定あるの?」

 全員が食卓を囲むと、快斗は口をモゴモゴさせながら聞いてきた。

「……! な、無いけど?」

 しまった。異常な程驚いてしまった。しかも声が裏返った。ごめんなさい。

「驚きすぎ」

 何故か彼は嬉しそうに笑っている。

「一緒に課題やらない?」

「快斗の場合は『教えて?』でしょ?」

 咲っぺは悪戯っぽく笑った。それに吊られてみんなの表情が解れた。

「確かに、咲の言う通りだな」

「快斗、あんまり心優を頼りすぎないこと!」

 歩が頷くと、続いて咲っぺはお母さんみたいに言った。

「そうだよ。私だっていつ頭が可笑しくなるかわからないんだから」

「そこ⁉︎」

「確かに、心優は追い込まれると頭可笑しくなるもんね」

 歩はフッと笑ってマグカップを置いた。

「そんな事はござらん」

「自分で言ったくせに否定すんなよ」

「だって、自分で言うのと人に言われるので随分違うじゃない」

「心優……。超共感っ‼︎」

「いえーい! 咲っぺやっぱりわかってるぅ〜!」

「本格的に心優がヤバイな」

 まっさんがボソッと呟き、隣の快斗が苦笑する。

「ゲッ‼︎ そろそろ準備しなきゃ遅れるっ!」

 咲っぺは時計を見ると、そう言って朝ご飯をかき込み、席を立った。


 咲っぺと歩が居なくなると、「おたく」は一気に静まりかえった。

「この静けさ……。ギャップがっ」

「そうだね……。咲っぺの存在がここまで大きいとは……」

 まっさんも出勤した為、2人でのんびりとお茶を啜る。

「課題……そろそろやろうかな、」

「快斗がやる気あるなんて珍しい。頭打ったの?」

「……。やる気あったらダメかよ」

「いや、とても良いことだよ? でも、突然の変わり様に驚いたというか……? 何かあったのかなって」

「……何も無いよ」

「そっか」


 ***


 何も無かったなんて、嘘です。大嘘。

 ただ、早く課題を終わらせて、心優を遊びに誘いたいってだけです。

 彼女の心の内には、まだ淀んだ所がある。それは先日、ハッキリした。

 俺は、その淀みを取り除いて、彼女が思い切り笑う顔が見たいだけだ。

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