朝、2丁目公園で。
翌日、日曜日。
「心優? どうしたんだ? こんな朝早くに……」
「ちょっと出掛けてくる」
歩は怪しそうな顔をして聞いてきた。朝の7時。いつもなら寝ている時間だが、今日は少し出掛けるのだ。
「どこ行くんだよ、」
「……探さないでください」
「家出かよっ‼︎⁉︎」
「違う違う。ちょっと出掛けるだけだから」
「……怪しすぎだろ」
何をそんなに不審がっているのか、歩は眉をひそめてジッとこちらを見つめてくる。私はとりあえず適当なことを言って「おたく」を出た。
向かった先は、近くの公園。
私はトートバッグからノートパソコンを取り出し、ベンチに座ってキーを打ち始めた。
朝の清々しい日差し。少しヒンヤリとした心地よい風。心が浄化されて、書きやすい。ということに最近気付いた今日この頃。
人も居ないし、気持ち良いし、なんで早く気が付かなかったんだろう。
私は肩や目が疲れてきたので、顔を上げ、腕を回したりして体を解した。
「心優」
しんとした空間の中に、聞き覚えのある声が柔らかく響いた。
声のする方を見ると、すみ兄が私服ジャージでこちらへ駆け寄ってくるのが見えた。
「すみ兄! ……ジョギング?」
「うん。心優は……気分転換?」
「うん、居心地良いから……」
「そっか、……隣良い?」
私が頷くと、彼は隣に腰掛け、癒し全開の笑顔で汗を拭った。
「どう? シェアハウス生活2年目、」
「うん。楽しいよ」
「ふーん……。でも、なんかあったでしょ?」
「……やっぱりすみ兄にはバレちゃうか……」
「わかるよ、そりゃ。心優わかりやすいもん」
彼は得意げにそう言って、笑った。
「俺で良かったら聞くけど?」
「……望先輩に、私がOWLだってことを教えた」
「それだけじゃないように見えるけど?」
「……快斗に……こ、告られ、た……」
やめろ。なぜ赤面するのだ私。ほら、コメントに困ってるよ。というか、アレは告白だったのか? 突然過ぎて未だに不明。話題を変えよう。えーっと、えーっと……
「わ、私らが中学の時さ、佑、私のこと避けてたじゃない? アレって、冷やかされたから……なのかなぁ」
わー! バカバカ! 違うってば! 話題を変えようとしてどうしてそうなるっ!
「あー……。丁度あの時、心優と佑、からかわれてたでしょ? それで……あんな事があって……。佑は自分のせいだと思ったんだって。心優をこれ以上傷付けたくない、って」
あんな事って、あれだよね。私の黒歴史の塊の……。
「……そ、そっか。」
佑いい奴過ぎっ‼︎ それに、ひよりんのカン当たってたよ! エスパーかな? って、違うだろ!
「あ、ごめんね、心優。別に、そういうつもりじゃ……⁉︎」
すみ兄は慌てたように両手を振り、私の顔を見ると固まった。
「……ホントに泣き虫だな。心優は」
「え?」
頬を拭ってみると、手に水滴が付いた。
「え、なんで涙が、え、と、止まんない……どうしよ、」
涙を拭っても拭ってもキリがない。すると、すみ兄は首にかけていたスポーツタオルでそっと涙を拭いてくれた。
「ちっちゃい頃と変わんないね、久し振りに心優の涙拭いたな」
「まるでいつも泣いてたみたいな言い方しないでよっ」
「いつも泣いてたじゃん、」
「泣いてないっ」
反論した瞬間、お腹が鳴ってしまった。そういえば、今朝はまだ朝食を食べていなかった。恥ずかしすぎだろ私。
「……。なんか食べようか?」
「やった! すみ兄のおごりねっ‼︎」
「それで泣き止むっていうのも変わってないね、」
呆れ半分、といったところで、すみ兄はそっと笑いかけた。落ち着くんだよな。すみ兄の隣って。
私がホッと溜息を吐いた途端、昔、聞き覚えのある冷たい声が聞こえてきた。
「あれ、河瀬センパイと八生サン? お久し振りですね」
視線をまっすぐ前に向けると、あの人が立っていた。
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