どうしよう。

 八生心優、16歳、今年の11月に17歳になる。

 常時ポニテ、メガネ。右目0.5左目0.4。

 休みの日は大抵パーカーで過ごす。兎にも角にも地味なJKである。

 2次元に心奪われたピュアな腐女子。あれ、ピュアな腐女子って居るのかな。まあ、いいや。

 中学の時からネットで小説を書き始め、高校入学と共に書籍化決定。ある意味、高校デビュー。そしていきなり漫画化。有名な漫画家さんに描いてもらったおかげで、その名は広く知られるようになった。

 ペンネームはOWL。

 今では、私自身の脳内に「私」が2人いる状態。

 普段は「八生心優」で、執筆中は「OWL」というように、それぞれの場面でスイッチを切り替える。

 自分では結構冷静な人だと思っていた。しかし。


 しかし‼︎



「好きだ」(フラッシュバック)



「ぎやあああああああっっっ‼︎‼︎」

 ガツガツと壁に頭をぶつけてみるが、が消える事はない。

 えーっと、冷静になって考えようぜ、八生心優。

 私、告られたのかな⁉︎

 いや、私の小説が「好きだ」なのかもしれないぞ?

 そうか。そうだよね。こんな地味な腐女子、何を好き好んで恋に落ちるのだ!

 そうだそうだ! 目を覚ますんだ! 八生心優!

 ……いや、やっぱりあれはおかしい。

 何がだよっ! もう良いだろう⁉︎ 自惚れるな! 早く書けよ小説! 来週〆切だぞ!

 そうでした。では、OWL(悪魔役)さん、あとでもう一度相談しに来ますね。

 もう来るな! そんなくだらない事を考えるな! もう一度言うぞ! 目を覚ませ八生心優(天使役)!


 ダメでした。脳内の八生心優(天使)とOWL(悪魔)、どちらも「恋」とかそういうものに対しての知識も経験も持っていないし、全く頼りにならない。

 頭を抱え、少し前の記憶を辿ってみることにした。


「好きだ」

 快斗は、私の目をジッと見つめ、緊張した表情で、たった一言、そう言ったのだ。

「……え⁉︎」

「……付き合ってとか、そういう事は、今は言わない事にするから。……ただ、知っておいて欲しかったんだ」

 唖然とする私に、彼はゆっくりとそう話した。

「……いきなりごめんね、」

 少し困ったような笑顔を浮かべ、今度はなぜか謝られてしまった。その時、あの時の、あの記憶が、脳裏を過ぎった。

 -誰がお前みたいなオタク、好きになるんだよ。-

 -身の程を知れ。-

 あんな目に会いたくない、会わせたくない。

「……ありがとう」

 私は、ただ震える声でそう言うことしか出来なかった。快斗はそれでも、嬉しそうに笑ってくれた。

 彼は、のように、私を突き放さなかった。


 ***


 部屋に戻って扉を閉めると、俺は鍵を閉めてベッドに飛び込んだ。

 枕に顔を押し付け、あーー‼︎‼︎ 、と叫んでみるが、羞恥心が消える事はなく、頬が更に火照る。

 ただ、彼女の様子を伺うために部屋を訪ねた。彼女はなぜか涙を流していて、気持ちが抑えきれなくなり、言ってしまった。

 どうしよう。明日から絶対避けられる。彼女はいつも通り接してくれるだろうか。修学旅行の時の事を考えれば、それは難しそうだ。

 大きく溜め息をつき、俺はそのまま眠りについてしまった。

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