泣いてたら、

 昨年と同じく、疲労と睡眠不足が原因で倒れた私。1日ぶりに帰る「おたく」の玄関まで、望先輩が送ってくれた。

 私がOWLだということを知っても、態度を変えないで居てくれる先輩に、私を励ましてくれた先輩に、感謝の言葉以外無かった。

「じゃあ、俺はここで」

「ありがとうございました」

「うん、体調にもっと気を付けてね。ストレス溜まったら、いつでも俺に愚痴っていいから」

「はい……」

 苦笑いしか出来ない私に、先輩はまた頭をポンポンとしてくれた。

「じゃあ、また来週」

 イケメンスマイルを振りまいて、先輩は帰って行った。


「ただいま……」

 玄関ドアを開けると、まず誰の靴も置かれていない事に驚く。

 今日は金曜だから、部活などがあって全員不在でも仕方が無い。私は靴を揃えて脱ぎ、端に寄せる。鍵置き場には全員分の鍵がある。

 これはおかしいな。

 私は悶々としながらリビングの扉を開けた。その時、咲っぺが飛びかかってきた。

「心優っ‼︎」

「わっ⁉︎ 咲っぺ⁉︎ ビックリしたぁ……」

「サプライズだよん♪」

 咲っぺは、えへへ、と笑って私をいつもの席に誘導する。

「心優、ビックリした?」

 快斗はワクワクした表情で聞いてきた。

「靴は無いのに鍵が全員分あるから、もしかしたら、とは思った」

「あっ‼︎ 忘れてたっ‼︎ 鍵置き場ちゃんと細工してなかった!」

 歩は頭を抱えてうな垂れた。

「でも、咲っぺが飛んでくるとは思ってなかった」

「やったね☆」

 咲っぺを指をパチン、と鳴らしてウインクした。

 本当に可愛い。咲っぺの彼氏になりたい。自慢したい。

「ささ、今日はご馳走だよ!」

 まっさんはニヤッと笑った。

「まっさん……! まさか……‼︎」

「そのまさかだよ! 咲っぺ‼︎ 今日の夕飯は……回転寿司だーーー‼︎‼︎」

「だーーーー‼︎‼︎‼︎‼︎」

 咲っぺは顔を真っ赤にさせて大はしゃぎしている。

「……大丈夫なの⁉︎ 高校生4人分の寿司って、かなりの値段になるけど」

「それくらい……どうってこと無いさ!」

 まっさんはドヤ顔で言った。

「やっぱり大株主とか?」

 快斗はそう呟き、まっさんを見つめている。そうだよね。高校生4人分の寿司を普通に払えるって、凄いよね。中々居ないよね。太っ腹だよね。

「SUSHI! SUSHI!」

 咲っぺは何故か外人になりきって1人で喋り続けている。私よりも病院にお世話になった方が良いかもしれない。

「よし! 行くぞ!」

 まっさんはそう言って、部屋から上着を持ってきた。

 咲っぺ達もそれに習うようにして上着を取りに行き、ルンルンとしながら回転寿司へ向かった。



 寿司をたらふく食べ、「おたく」に戻ると、私は再びPCを開いた。

 今日は書かずに、ただサイトの掲示板などに書き込まれたOWL宛コメントを読む。

『またまた書籍化おめでとうございます! 今度は是非恋愛モノを書いてください!』

『OWLさん、やっぱり好き♡』

『最近OWLさんのファンになりました! 書籍化作品、全部大人買いしました! www』

 ずっとコメントを見ていくと、1つ、相手の顔が見えるようなコメントが目に入ってきた。

『無理しないで下さい。応援してます』

 きっと、望先輩だ。ただのカンにすぎないが、そう思った。

 彼は、私を小説家としてより、1人の人として、1人の女子として、気遣ってくれる。

 応援してくれている方々のコメントもとても嬉しいが、その倍以上の破壊力を持った彼の言葉は、疲れた私の心に浸透し、涙腺を崩壊させるのだった。

「心優……?」

 気付くと、ドアから快斗が顔を覗かせていた。

「どうしたの⁉︎」

 涙を流している私を見て、彼はギョッとして言う。

「いや、なんか、疲れてたからかな、嬉しくて……」

 泣きながら笑ったので、多分変な顔だったのだろう。彼はフッと笑ってドアを背に閉めた。

「心優、」

 彼は私の元へ歩み寄り、そっと微笑んだ。

「課題?」

「ううん」

 彼は首をゆるゆると横に振り、ベッドに座った。

「どうしたの?」

 私が問うと、彼はまっすぐな目をして言った。

「今、言うべきかわからないけど、1つだけ、言わせてくれる?」

 何のことかわからないが、とりあえず首を縦に振る。そして彼は、何拍か間を空けて、私の目を見つめて言った。


「好きだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る